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第65話 誓いの咆哮と、守りし者

守りたいものがあるとき、人はどこまでも強くなれる。

その選択が、誰かを救うことになるのなら――。


洞窟内に、プレイヤーたちの足音が反響していた。

 手にした武器が氷壁を照らし、その先にある霜牙の魔狼の影を映し出す。


 「いた……っ!」


 最初に声を上げたのは、鋭い槍を持つプレイヤーだった。

 数名のパーティは連携を取って魔狼を囲むように布陣し、戦闘態勢を取る。


 その中央に立つシアンが、彼らの前に両手を広げる。


 「やめてくれ! 戦うつもりはない。霜牙の魔狼は、今――卵を抱えているんだ!」


 「知ってるさ。その卵もドロップ対象だろ?」


 返ってきたのは、冷たい言葉だった。

 彼らはイベント報酬のために、すでに目的を決めている。

 話し合いの余地は、なかった。


 霜牙の魔狼が、静かに前へと進み出た。

 氷の毛並みが月光のように輝き、その瞳は鋭く、しかしどこか悲しげに揺れている。


 『お前が言った通りだ、人は選ぶ。

 ならば、我もまた――選ばねばならぬ』


 その言葉に、シアンの胸が熱くなる。

 人ならぬ存在が、共に立ってくれている。

 ただ、それだけで震えるほどに心強かった。


 「……一緒に戦おう。お前の子どもを、俺が守る」


 霜牙の魔狼は無言で頷き、咆哮を上げた。

 氷の魔法が舞い、戦場の空気が一気に凍りつく。


 戦闘が始まった。


 火炎を放つ魔導士、前衛のタンク、素早い短剣使い――

 彼らの攻撃が一斉に魔狼へと襲いかかる。


 シアンは《雪灯の絆》を発動し、防御結界を張る。

 しかし人数差は歴然で、徐々に押されていく。


 それでも霜牙の魔狼は後退しない。

 己の身を盾にして、卵を守るように前へ前へと進み出る。


 「ロアス、援護して!」

 シアンも回復と支援魔法を駆使し、懸命に戦い続けた。


 だが、終わりは突然訪れる。


 火球が炸裂し、魔狼の肩を直撃。

 鋭く咆哮を上げながらも、その足元が揺らいだ。


 『……限界が近い』


 「まだだ……まだ、守らなきゃ……!」


 その瞬間、霜牙の魔狼がシアンを突き飛ばした。


 『この子を――託す』


 そう言って、最後の魔力を放つ。

 巨大な氷の壁が出現し、卵とシアンたちを覆うように包み込んだ。


 次の瞬間、魔狼の体に複数の攻撃が命中する。

 光が弾けるように、その身体が崩れ落ちていった。


 「っ……!」


 シアンは叫んだが、声にならなかった。

 ロアスが静かにその肩に顔を寄せる。


 氷の壁の中、卵はかすかに脈動していた。

 シアンは震える手でその殻を撫でた。


 「……守ったよ。あの子は、ちゃんと」


 霜牙の魔狼の命は尽きた。

 しかし、その意志はたしかに残されていた。


 プレイヤーたちは報酬画面に視線を移す。

 誰もが沈黙していた。

 彼らも、どこかで“選ばなかったもの”の重さを感じていたのかもしれない。


 静寂のなかで、シアンは誓う。


 「この命は……絶対に、無駄にしない」


誰かの犠牲のうえに、守られた命がある。

その重さを知ったとき、選ぶ覚悟が強さに変わる。

次回は18時更新予定です。


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