表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/101

第58話 雪を踏む音、知らなかった世界の気配

イベントが始まり、ようやく落ち着いて雪霜の村を歩く時間ができたシアン。

村の景色を楽しみながら、次に繋がる“出会い”と“情報”が、静かに動き出します。

早朝の雪霜の村は、雪明かりに照らされ、静かでどこか幻想的だった。

 軋む木製の橋を渡ると、雪の重みで折れた枝や、凍ったつららが目に入る。ロアスの足音が、粉雪の上にふんわりと重なるたび、シアンの心もほぐれていった。


 「こういう時間、いいな……」


 村の通りは、仮設店舗が立ち並び、プレイヤーたちで賑わい始めていた。

 道端では小さな焚き火を囲むNPCが、温かい飲み物を配っている。


 「おや、旅人さん。冷え込んでるでしょう。これを飲んでいきなされ」


 シアンは笑顔でマグを受け取り、口元に運んだ。甘いシナモンの香りが、芯まで冷えた体を温めてくれる。

 ロアスはというと、焚き火にあたって気持ちよさそうに耳をピクピクさせている。


 そのとき、近くの掲示板が光を帯びた。新たに追加された《情報》ウィンドウが開く。



 【イベント情報:凍てつく森の主《霜牙の魔狼》について】

 ・霜牙の魔狼は、村北東の「氷眠の洞」付近に出現

 ・気配は非常に薄く、挑発行動または一定ポイント貢献により出現確率上昇

 ・寒冷耐性推奨。プレイヤー間協力により撃破報酬変化あり



 「……この村の“ボス”、やっぱりいるんだね」


 ぼそりとつぶやくと、隣から別のプレイヤーが声をかけてきた。

 黒いマントを羽織った青年。無口そうな目元だが、なぜか親しみやすさを感じさせた。


 「霜牙の魔狼、ね。あれはただのボスじゃない。“あの場所”に近づくと、空気の色が変わる」

 「空気の……色?」


 青年はそれ以上言わなかったが、意味深な笑みだけを残して立ち去っていった。

 その後ろ姿を見つめながら、シアンは静かにログウィンドウを閉じた。


 「霜牙の魔狼……」


 その名が、なぜか心に引っかかった。

 だが今はまだ、その扉を開けるには早い気がした。


 村の路地を抜けると、雪を削ったような小道に出る。

 ここは《職人の通り》。大工や鍛冶、仕立て屋など、クラフト系NPCやプレイヤーが集まる場所だった。


 ふと、細い裏道に差し掛かったところで、小さな子供のような声がした。


 「ねえ、お兄ちゃん! この薬草、何の効果か分かる? 私、鑑定スキル持ってないからさ!」


 振り向くと、背の低い少女プレイヤーが両手いっぱいに雪原の草を抱えていた。

 「えっと……じゃあ、鑑定してみるね」

 シアンがスキルを発動させると、ウィンドウに「身体を温めるハーブ(料理用)」と表示された。


 「わあっ、ありがとうっ! じゃあ、これで温かいスープ作れるね!」


 少女は嬉しそうに駆けていった。

 それを見送るシアンの横で、ロアスがぽふっと座った。


 「ねえ、ロアス。なんだか……この村、あったかいね」


 雪に覆われた世界で、ほんの少しだけ芽吹いたような気がした。

 情報も人との出会いも、きっとこのイベントの一部。そう思えた朝だった。

村の散策、そして気になる情報と出会いが少しずつ積み重なってきました。

次回はいよいよ、“次の行動”へと繋がっていきます。

次回は18時更新予定です。お楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ