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第53話 ふたりの、最後の仕上げ

イベント開始まで、あと三日。

雪の森を舞台にした“凍てつく森の来訪者”に向け、準備もいよいよ大詰め。

今回はスキル構成を見直しつつ、

ロアスの癒し力(?)が炸裂する、ちょっとしたサブイベントも…!

ほのぼのとした空気でお届けします


 朝の宿の部屋に、やわらかな光が差し込む。

 ログインしたシアンは、ログ画面を閉じるとローブの裾を整え、隣で丸まっていたロアスを覗き込んだ。


「ロアス、朝だよ。イベントまであと三日だって」


 ぴくり、と耳が動き、ロアスがあくびをひとつ。

 その小さな体をくるりと伸ばし、もそもそとシアンの足元に寄ってくる。


「今日はスキルの見直しと、街をぶらっとしようか。あと、君の装備もちょっと整えよう」


 新しい解体ナイフを腰に差しながら、スキルメニューを開いた。

 体術、氷魔法、テイマー、そして最近取得した鑑定スキル。どれも育ってきているが、戦闘中に“もう少しこう動けたら”と感じる場面も増えてきた。


「……補助系スキル、ひとつ取っておこうかな。冷気耐性バフ、戦闘前に付けられたら便利そう」


 スキルポイントを確認し、1つだけ残っていたポイントで《氷耐性付与:小》を取得。

 すぐにロアスに試すと、淡い水色のオーラがふわりと彼を包み、ひんやりとした空気が柔らかに消えていった。


「わ、似合うな……なんか氷の精霊みたい」


 ロアスは小首をかしげてぺろっと舌を出すと、満足げにしっぽを振った。



 スキル調整を終えたあと、街の中心にある噴水広場をふたりで歩いた。

 NPCたちがクリスマス風の飾り付けを進めており、雪の森にあわせた白銀のオーナメントが目を引いた。


 と、視界の端に、小さな女の子のNPCが見えた。手には、なにやら紙袋──。


「あれぇ〜? どこにいっちゃったの?」


 シアンが声をかけるより早く、ロアスがするりと前に出る。

 小さな鼻をくんくんと鳴らし、紙袋のにおいをたどるように女の子の足元へ近づいていった。


「あっ……! きみ、なにか分かるの?」


 しゃがんだ女の子にロアスがちょこんと手を乗せてから、広場の石畳をぴょんと跳ねて駆け出した。

 女の子とシアンがあとを追うと、角を曲がった小道の隅で、袋から転がり落ちたリンゴをくわえて戻ってくるロアスの姿があった。


「えへへ、すごいね! ありがとう、ちっちゃいお兄ちゃん!」


 ロアスは得意げに尻尾を振り、女の子の手にリンゴを乗せた。

 そのまま「ぎゅっ」と抱きしめられて、照れくさそうにきょとんとした顔をする。


「……ロアス、おまえ、反則級にかわいいな」


 その愛らしさに、周囲のNPCやプレイヤーからも「癒された」「わんこかと思った!」なんて声が上がる。



 ひと仕事(?)を終えて宿に戻ると、ロアスは毛布に潜り込んでぐるぐると身体を丸めた。


「今日はありがとね。あれ、めっちゃ褒められてたよ」


 返事はない。すでにすぅすぅと寝息を立てている。


 シアンは静かに笑うと、装備とアイテムの最終チェックに取りかかった。

 もうすぐ、雪の森がやってくる。そのとき、隣にいるのがロアスで良かったと──

 心の底から、思えた。


ほのぼの&準備回でした

ロアスの行動が癒しになるよう、細部まで可愛さを詰め込みました。

次回はいよいよイベント本番へ向けて突入です!

毎日18時更新となります!


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