第49話 あと2、そしてこの手に掴む実感
イベントまで残り1週間。
シアンとロアスは、静かに、そして着実に歩を進める。
「あと二つ、だな」
ギルドのカウンターでクエストボードを眺めながら、シアンは呟いた。
目指すレベル15には、まだ2つ届かない。
だが、焦りはない。計画通りだ。
《クエスト:草原の群れ討伐》
対象:野生ハウンド×8匹
報酬:500G/経験値中/素材回収任意
「これにするか」
「……戦い?」
「うん、でも今回は“解体”も本番。お前の分も、しっかり取ってやるから」
ロアスはいつも通り無表情に近い顔で、それでもどこか嬉しそうに尾を揺らした。
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クエスト対象となる“始まりの草原”の南東エリアに着くと、草のざわめきと共にハウンドの気配が漂う。
野犬のような姿の魔物で、動きが素早く牙も鋭い。
「じゃあ、いくぞ」
シアンは包丁を構えた。今回の戦いでは、氷魔法を使って相手の動きを止め、近づいて体術と包丁で仕留めるのが作戦だ。
「《フロスト・グリッド》」
凍気が走り、地面に氷の罠が広がる。走ってきた1体の足元が凍り、動きが鈍る。
そこへ一気に飛び込み、体をひねって膝を入れる。
バランスを崩した相手に包丁が振るわれ、喉元を裂いた。
「一匹!」
「残り七」
ロアスも横から飛び込み、鋭い蹴りで別のハウンドを吹き飛ばす。
蹴りに合わせて氷結の破片が舞う──この連携は、日々の積み重ねの成果だ。
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全ての魔物を倒し終えた後、シアンは腰を下ろし、バッグから昨日買った“解体用ナイフ”を取り出した。
「さて……どれだけ違うか、試してみるか」
まずはロアスが仕留めた個体から。
皮を裂き、筋を見極めながら手際よく切り開いていく。
《解体成功》
《品質:B ハウンドの牙×1/肉×2/皮×1 取得》
「おっ、前より確実に取れてる」
ロアスが静かにシアンの手元を覗き込む。
「……器用」
「現実で包丁振ってた成果がようやく活きてきたな。お前の蹴りも、いい感じだった」
「……褒められた」
少しだけ頬を緩めたロアスに、シアンも笑う。
「お前の蹴り、意外と真っ直ぐなんだよな。あと、魔法の破片が出てる。あれ、自分で出してるのか?」
「……たぶん、そう」
「……“たぶん”か」
二人のやり取りは淡々としているようで、確実に距離を縮めていた。
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最終的に、すべての個体を解体し終えた頃には、空が橙に染まり始めていた。
戦闘と解体で、経験値も一気に入り──
《シアンのレベルが14になりました》
《スキル【解体:Lv2】に上昇しました》
「よし、あと1つ……。イベントまでには間に合う」
「……勝てる?」
「勝つよ。そのために、今があるんだ」
静かに言い切ったシアンの隣で、ロアスの氷の結晶がふわりと舞った。
一歩一歩、着実に。
解体スキルも戦いも、つながっているんだと感じられる回でした。
次回も18時更新です!




