第46話 野草と直感、そして料理の閃き
道中に転がるのは、ただの草か、それとも宝か。
食べてみなければ、わからない――。
「よし、これでラスト!」
包丁が閃き、モンスターの首元を浅く裂いた。
短い呻き声と共に倒れるのは、野生の猪に似たモンスター【ワイルドボア】。
討伐報酬の対象となる肉を採取すべく、すぐに包丁を手にする。
以前よりも手際はよく、切り口も整っている。
《スキル【解体】の熟練度が上昇しました(28%)》
《素材【上質な猪肉】を獲得しました》
「いい肉だな。……ロアス、少しだけ我慢してくれよ?」
横で待っていたロアスは、くん、と鼻を鳴らしただけで、それ以上は何も言わない。
討伐と解体を終え、街へ戻る道すがら――。
ふと、石畳から続く脇道の草むらに、淡い紫色の花をつけた野草が群生しているのが目に入った。
「……ハーブ、っぽい?」
しゃがみ込み、茎を摘んで匂いを嗅ぐ。
清涼感とほのかな甘さの混じった香り。毒性は感じない。が、鑑定スキルはまだ持っていない。
「……少しくらいなら、いけるか」
シアンは一枚をちぎって、そっと口に含む。
「苦くはない……クセもないし、いけるな」
試しに数本だけ採取し、革袋へ入れる。
街へ戻ると、すぐに自宅の小さなキッチンスペースで調理を始めた。
今日のメニューは【猪肉のハーブロースト】――名前は今、決めたばかりだ。
焼き色を見ながら、採取したハーブを刻み、スパイス代わりに加えていく。
香りが立ちのぼり、油が肉に絡む音が部屋に広がる。
「ロアス、できたぞ」
差し出された木皿の上には、ほんのり緑がかった香ばしい肉料理。
ロアスはじっとそれを見てから、そっと一口かじった。
「……ん。うまい」
「だろ?」
その瞬間、ステータスウィンドウが反応した。
《スキル【料理バフ効果:初級】が解放されました》
《バフ効果【微回復:3分間】を付与できる料理を作成しました》
「……バフが、ついた……!」
地味だが、明確な成長。
あの野草の存在が、料理に“変化”を与えたのだ。
つまり――応用できる。
「これからは、ただ焼くだけじゃ足りないな。いろいろ、混ぜてみるか」
ロアスは、二口目をゆっくりとかじりながら、満足そうにしっぽを揺らしていた。
道ばたの草が、次のステップをくれる。
何がきっかけになるかわからないのが、楽しい。
次回も18時にお届けします!




