第47話 鋭く、丁寧に――“解く”という技術
倒すだけじゃ終わらない。
素材をどう扱うかで、結果も価値も変わってくる。
「解体スキル……?」
シアンは、ギルドの掲示板に貼られたクエスト用紙を見つめていた。
“指定モンスターの討伐後、素材納品可能な方限定”とあり、報酬欄には【解体スキル(初級)】と記載されていた。
「……やってみる価値はあるかもな」
装備を整え、ロアスと共に出発。
目的地は“始まりの草原”北区画に現れる、ウルフ型モンスター『グレイファング』の小群。
サイズはそこまで大きくないが、集団戦闘を得意とするため、油断はできない相手だ。
* * *
「3体、か……」
しなやかに茂みから現れた3体のグレイファング。
それぞれが距離を取り、円を描くように包囲してくる。
「ロアス、右!」
呼びかけと同時に、左へステップしながら包丁を振る。
金属のきらめきと共に斬撃を加え、同時に氷槍を後方に向けて発動――牽制を入れる。
「はっ……!」
前足の突進を体術で流し、蹴りを入れて距離を取り直す。
ロアスはロアスで、空中から飛びかかるようにして相手の背を打つ。
だが、動きが速い。
群れの1体を削っても、残りがすぐにフォローへ回る。
削っては、回避し、削っては、押し返す。その繰り返し。
「クッ……っ、なかなか……!」
ポーションを1本使う。
冷静に、焦らず、確実に――それだけを意識する。
やがて、1体が崩れ落ちる。続いてロアスの一撃で2体目が倒れる。
最後の1体は、氷の連撃で止めを刺した。
《レベルが13に上がりました》
《スキルポイントを1獲得しました》
「……ふぅ」
呼吸を整えるシアンの横に、静かに寄り添うロアス。
額にかいた汗を拭い、戦闘後の疲労がゆるく体を包む。
だが、今はまだ終わりではない。
「……じゃあ、やってみるか」
討伐報告の条件である“素材の納品”。
つまり、解体しなければならない。
シアンは少し躊躇したあと、使い慣れた包丁を取り出した。
《解体スキル:初級 取得しました》
スキル取得の表示と共に、脳裏に正確な切り分け手順のイメージが流れ込んでくる。
皮の剥ぎ方、筋肉の走り方、関節の外し方――。
「……やってみよう」
最初の一太刀は、恐る恐る。
だが、次第に感覚がつかめてきた。
切り離した部位が、まるで料理のように整って並んでいく。
肉、毛皮、牙――それぞれに名称と品質が表示され、手応えが目に見える形になる。
《素材【グレイファングの上質な牙】を獲得しました》
《素材【柔らかい狼肉】を獲得しました》
《スキル【解体】の熟練度が上昇しました(12%)》
「……なるほど、やりがいあるな」
後ろから、覗きこむようにしてロアスが小さく鼻を鳴らす。
「お前も、興味あるか?」
「……ないことも、ない」
微妙な返事に、思わず笑ってしまう。
素材を納品し、ギルドでの報告も無事完了。
「良い肉が取れましたね」と言われたときは、少しだけ誇らしかった。
討伐して終わり、じゃないのがVRMMOの楽しいところ。
次はどんなクエストが待っているのか。
また明日の18時、お楽しみに。




