第44話 煮込むほどに、深くなるもの
結果はすぐに出なくてもいい。
積み重ねの先に、ちょっとした変化が訪れる。
「次はもう少し香りを立てたいな……」
ギルドの共有キッチン。
シアンは、再び野菜スープを作っていた。
昨日よりも刻み方を丁寧にし、炒める時間も微調整。
ロアスはというと、足元で器用に尾を丸めながら座っている。
時折、鍋の中を覗きこむようにぴょこっと伸びあがるのが可笑しくて、思わず笑みがこぼれた。
《スキル【料理】がレベル4になりました》
《料理バフ:微効果発動可能(効果:HP回復+3%/30分)》
「……お、きた」
地道な努力が、確かに形になった。
さっそく盛り付けたスープを一口。
「……昨日より、味が丸くなってる」
ほんの少しの差。でも、それが嬉しい。
「ほら、ロアスも」
「……ぅん」
スプーンで差し出すと、ロアスはぺろりと舌ですくい、しっぽをふわっと揺らした。
* * *
昼過ぎ。
食後の休憩を終えたシアンは、街の外れへ向かっていた。
「……ちょっと、気晴らしだ」
今日はクエストも予定なし。
掲示板を眺めても、やる気が湧くような依頼もなかった。
だからこそ、体を動かしたくなった。
《エリア:始まりの草原 南区画》
草を踏みしめて進むと、見慣れたモンスターたちが姿を見せた。
小型のウルフ型モンスター。ひとりでも倒せる相手だ。
「ロアス、いくぞ」
呼吸を整え、包丁を構える。
ステップを踏みながら、体術の動きを滑らかに織り交ぜて斬撃。
背後から飛び出す氷槍が、確実にトドメを刺す。
「……連携、だいぶ良くなってきたな」
戦いながら感じる、息の合い方。
数日前まではぎこちなかったのが、今は自然に補い合っている。
ロアスも、シアンの動きを見てか、時々似たような構えを真似して蹴りを繰り出す。
それが敵に当たるたび、ちょっと得意そうに尻尾を揺らすのが面白かった。
「……お前、真似してるのか? 可愛いな」
「……してない」
ぷいっとそっぽを向くロアスに、シアンは笑う。
この世界には、まだ知らないことが山ほどある。
でも、こうやってひとつずつ積み重ねていけば、きっと――。
ほんの少しの成長が、次の一歩になる。
明日も18時に、お届け予定です。




