第43話 届け物と、じっくり煮込むスープの話
穏やかな午後に、できることをひとつずつ。
そんな時間が、後に大きな変化をもたらすのかもしれない。
届け物は、小さな包みに収まったギルド印入りのポット。
街外れにある雑貨店までは、静かな石畳の道が続く。
ぽつぽつと並ぶ商店の中に、目的の雑貨店を見つける。
扉を開けると、優しげな女性NPCが笑顔で出迎えた。
「これをお届けに来ました」
「まぁ、ご丁寧に。ありがとうございます。最近は冒険者さんも丁寧ね」
小包を渡すと、そのままスムーズにクエストが完了した。
《クエスト「ギルド指定品の配達」達成》
《達成報酬:野菜スープレシピ》
ギルドに戻り、報告を済ませると、受付が封筒を手渡してくれた。
封筒を開くと、見慣れたスープ皿のイラストと、手書き風のレシピが添えられていた。
「これ……作ってみるか」
届け物は無事終えた。せっかくレシピも手に入れたのだ、今晩の夕食にぴったりだろう。
途中で出会った露店の匂いに、ロアスが鼻をひくつかせた。
「……野菜、買って帰ろうか」
届け物を終えたシアンは、ついでに露店の並ぶ通りへと足を向けた。
新鮮な野菜が丁寧に積まれた木箱。どれも料理好きの心をくすぐる品ばかりだ。
「兄ちゃん、料理する人かい?」
店主の陽気なNPCが声をかけてくる。
「まあ、少しだけ」
「へえ、なら覚えておくといいよ。料理レベルが上がると、“料理バフ”ってのが付くんだ。体力回復が上がったり、攻撃力アップしたりな」
「バフ……へぇ、便利なんだな」
「ただし、一定レベルに達しないと発動はしないぜ。焦らず腕を磨くこった」
にかっと笑う店主から、玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、セロリを購入。
ついでにスパイスも少量手に入れた。
* * *
ギルドの共有キッチン。
火加減を調整しながら、煮込む時間も楽しんでいると――背後から「くぅん」と鼻を鳴らす声。
「待ってろ。味見くらいはさせてやるから」
たっぷりの野菜がとろけるように煮えたら、最後に塩で整える。
ギルド報酬で手に入れたレシピは、意外と奥深かった。
《スキル【料理】がレベル3になりました》
《新機能:料理バフの効果が解放されました(発動条件未達)》
「……まだバフは発動しないのか。地道にいくしかないな」
できたてのスープを、ロアスに小皿で分けると、嬉しそうにしっぽを振る。
シアンも木のスプーンで一口。
「……あったかい」
心までほっと温まる味だった。
どんな強さも、こんな穏やかな一歩から。
次はどんな料理に挑戦するのでしょう?
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