第42話 噂の真ん中で、スープを煮込む
一躍、注目の的に――
それでもシアンの心は、静かなまま。
《ワールドアナウンス》
【氷魔法使い、テイマー職のプレイヤーが“始まりの草原”初級ボスを初撃破しました】
【対象プレイヤー名:シアン】
ログアウト中のプレイヤーたちをもざわつかせる文字列が、システム音と共に世界中へ流れた。
新規職、非戦闘系を含む構成――注目されるのは当然だった。
* * *
「……あー、出ちゃったか」
街の入り口に戻ったシアンは、うんざりしたように小さくため息をつく。
その横でロアスが「くぅん」と鳴いた。
「いや、君は悪くない。むしろ、よく頑張った」
プレイヤーたちが集う広場。ちらほらと視線がこちらを向く。
「氷魔法とテイマーって」「まさかの包丁?」「名前シアンだって」と、ヒソヒソ声が聞こえてきても――シアンは気にせずに歩く。
* * *
ギルドの扉を開けると、受付の女性NPCが微笑んだ。
「おかえりなさい。お一人で初級ボスを討伐されたとの報告、驚きましたよ」
「まあ……色々あってね。簡単なクエスト、何かある?」
「ちょうど良いものが。街外れの雑貨店へ届け物をお願いします」
クエスト名:【届けてポット】
内容:ギルドの備品を指定の雑貨店へ届ける
報酬:料理レシピ『野菜スープ』
「それでお願いします」
(料理レシピか……地味だけど、使えそうだ)
ロアスが受付カウンターに前脚をかけ、じっとレシピのアイコンを見つめる。
「お前も気になるのか?」
くぅん、と一鳴き。
――これだから可愛い。
報酬がささやかでも、こういう日常の積み重ねが、たぶん強さに繋がっていく。
そう思いながら、シアンは小さな届け物を手にギルドを後にした。
注目されても、騒がれても、やることは変わらない。
そんな“静かな強さ”が伝われば嬉しいです。
※毎日18時更新中。次回は、報酬レシピを活かしたお料理回かも?




