第41話 牙を越えて、氷の刃となる
冷たい朝に温かなスープを。
そして、今日という日に備えて剣を――いや、包丁を握る。
「よく寝られたか?」
朝の陽光を受けながら、シアンは鍋の中をかき混ぜる。
スープの香りが立ち込めると、ロアスがしっぽを揺らして寄ってきた。
「今日は大一番だからな。しっかり食えよ」
二人でスープを飲み終えると、丘の向こうへ視線を向ける。
“始まりの草原”の奥。
初級ボス――【獣王グロウル】が待つエリアがある。
「行くぞ、ロアス」
* * *
森を抜け、開けた場所に踏み込むと、空気が変わる。
咆哮とともに現れたのは、全長2メートルを超えるクマ型モンスター。
毛皮は黒く、氷を溶かすような眼光を放つ。
「来い……!」
グロウルが地響きを立てて突進する。
瞬時に横へ跳び、包丁の刃を滑らせて横腹を斬る。
「ロアス、今だ!」
ロアスが低く唸りながら氷を纏い、足元から《氷撃蹴》を叩き込む。
クマの巨体がバランスを崩した隙に、シアンは魔力を集中させる。
「《アイスランス》!」
鋭い氷の槍が空を裂き、グロウルの肩に突き刺さる。
怒りの咆哮。返すように巨大な前脚が振り下ろされ、シアンは体術で受け流す。
(体が、重い……でも、あと少し……!)
ロアスが吠え、再び《氷撃蹴》を命中させたタイミングで――
「《アイスブラスト》!」
最後の魔力を叩きつけた。
氷が破裂し、クマの咆哮が森に消える。
ドサリ。
大きな身体が崩れ落ちた。
* * *
「……やったな、ロアス」
ロアスが小さく鳴いた。
その背に、どこか誇らしさが漂っていた。
ウィンドウが開く。
【レベルが2上昇しました】
【称号「氷の刃」を獲得しました】
《氷魔法の威力がわずかに上昇します》
【称号「契約者の絆」を獲得しました】
《幻獣とのテイム成功率がわずかに上昇します》
風が吹き抜けた。
森の奥にはまだ、見ぬ世界が続いている。
「まだまだ……いけそうだな」
ついにボスを超えました。
この一歩が、シアンの世界をさらに広げていきます。
※毎日18時更新中。次回もぜひお楽しみに!




