第38話 スキルポイントと、もうひとつの選択
新しい力を得るタイミング。それは時に、過去の自分と向き合う時間でもある。
ギルドを出て、街の石畳を踏みしめる。
(あの動き、やっぱり一歩遅れる……)
先のクエストでは、氷魔法とロアスとの連携で何とかモンスターを倒せた。
けれど、避けるべき攻撃が避けきれなかったことが数回。
包丁一本で戦う以上、受け流しや身のこなしは不可欠になる。
ふと、視界に淡い光が差した。
目の前にステータスウィンドウが自動で展開される。
【実績:複合スキルアクション達成】
スキルポイントを2獲得しました。
新たなスキルを取得できます。
「……そういえば、アップデートでこんな機能が追加されたんだったな」
行動や習得スキルの幅が広がると、自動でポイントが加算される仕様。
戦い、料理し、契約し、知識も蓄えた今の自分は、自然と条件を満たしていたらしい。
「さて、使い道だが……」
迷うことなく“体術”を選ぶ。
表示されたスキルツリーには、懐かしい言葉が並んでいた。
【体術:初級(Lv1)】
対象の力を受け流すことを主軸とした体捌き。
格闘系の基礎。連携時に“受け”が強化される。
「……合気道っぽいな」
思わず呟いた言葉に、隣を歩いていたロアスが首を傾げる。
その仕草が少しだけ、シアンの肩の力を抜いた。
「昔、ちょっとだけ習ってたんだ。護身のためってことでな。……今、役に立つとは思わなかったよ」
静かに深呼吸をして、もう一度ウィンドウを見る。
「取得、っと」
体がふわりと軽くなったような感覚。
目を閉じて、呼吸を整える。相手の動きを受け止める“型”が、自然と身体にしみ込んでいく気がした。
(これで、少しは戦いやすくなる)
そう思っていたその時──
ロアスが地面を軽く蹴って、彼の目の前に立つ。
小さく、静かに――構えを取った。
「……お前もやるのか?」
答えるように、氷の結晶が一つ、風に舞った。
ついに“体術”スキルを取得したシアン。
昔の経験が、今の戦闘に繋がっていく。
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