第35話 動き出す運営と、新たな波
世界を作る者たちの視線は、確かに彼に向いていた
これは、裏側の物語。
「……ログインユーザー数、今週も安定。テスト段階よりアクティブが増えてますね」
運営会社の管制室。
円形の会議室の中央に、ホログラムで浮かぶ数値とキャラクターデータ。
数名のスタッフが集まり、今週の進捗と問題点を共有していた。
「アップデート後の感想も、概ね好評。特にNPC関連は“生きているみたい”って評価が多いです」
「依頼をNPCから直接受けられるようにしたのが当たりだったな」
「感情パターンも成功してる。プレイヤーとの信頼値が行動で上下する仕組みも浸透しはじめてるし」
会議は順調に進んでいた。
だが、その中で一人のスタッフが手を挙げる。
「少し気になるプレイヤーがいます。……《シアン》という氷魔法使いです」
画面には、静かに街の片隅でパンを焼き、幻獣と共に行動する一人のプレイヤーの姿が映されていた。
その隣に寄り添う、淡い青の結晶のような毛並みの幻獣。
「この幻獣……誰のデザイン? 初期エリアで出るタイプじゃないよな?」
「はい。もともと“未発見エリアのボス級”として実装していた個体です。
ただ、アップデート後の『共鳴フラグ』を偶然満たして契約されたようで……」
ざわつく運営スタッフ。
「この時期に……? しかもテイマー職って地味なはずだろ?」
「ですが、掲示板でも話題になりつつあります。“あの幻獣はどこで出るのか”“料理で仲良くなれる?”って」
沈黙のあと、開発責任者が口を開いた。
「……いいじゃないか。予定外のルートを生み出したのは、プレイヤーの自由な選択。
今の時期だからこそ、目立つ動きとして取り上げやすい」
画面を操作しながら、続ける。
「それならこちらも、動こう。――そろそろ、大型イベントを実装する時期だ」
「フィールド型ですか? それとも街巻き込み型?」
「両方だ。生活系と戦闘系を横断する、複合イベント。……舞台は“凍てつく森”にしよう。
レア素材と限定スキル、NPCとの好感度でルート分岐がある形式で」
スタッフの顔に緊張が走る。だが同時に、ワクワクした空気も漂っていた。
「プレイヤーたちは気づいている。世界が少しずつ、反応を返しているって」
画面の端に、小さく映る《シアン》のステータスウィンドゥ。
そこにはこう記されていた。
──テイマー:契約(氷属性)
──幻獣知識:Lv1
──料理スキル:Lv2
──魔力操作:Lv2
彼の足跡が、物語の予兆となって世界を少しずつ動かしていた。
今回は運営サイドの目線から、世界の裏側を描いてみました。
静かなプレイヤーの動きが、どう広がっていくのか。
その波紋の中心に、確かにシアンがいる。
そんな回でした。
本作は毎日18時更新です。
裏と表、どちらも含めて楽しんでいただけたら嬉しいです!




