第30話 気づかれた異端
誰かが何かを始めたとき、空気は静かに変わっていく。
この世界では、そうした「変化」はすぐに広まる。
見られる側と、見つけた側の距離は、案外近いのかもしれない。
街の中央通りに近い噴水広場。
ひときわ目を引くのは、青白い毛並みの幻獣――ロアスの姿だった。
「……あの人、だよね?」
小声がすぐ背後から聞こえた。
振り返ると、二人組のプレイヤー。
軽装の魔法職と、ロングソードを背負った前衛タイプ。
どちらも見たことはないが、明らかにこちらを観察している。
「ねぇ、君さ……“氷魔法使いで幻獣連れてる人”じゃない?」
ストレートな問いかけに、シアンはわずかに首を傾ける。
「そうだけど、それが何か」
「やっぱりだ……! ほんとにいたんだ……! すご、街の中に幻獣……本当に」
少し興奮気味な声に、相方の前衛が制するように前に出た。
「すまん。話をしたくて探してた。
俺たち、テイマー職を検討しててな。いろいろ聞けたらと思って」
「……別に構わないけど、俺はまだ何かを語れるほどじゃない。ロアスとも、最近ようやく契約したところだし」
シアンの言葉に、ロアスが尻尾をふわりと揺らす。
彼の足元には、冷たい水面に氷の結晶が浮かぶような“気配”が残っていた。
「それでもいい。話だけでも十分参考になる」
そう言って、彼らは簡単に座れる場所を探して並んだ。
街の中では珍しい、プレイヤー同士の“情報交換”が、今始まろうとしていた。
──それは、注目されることへの第一歩。
自覚はまだ、ない。
静かに始まる変化は、時に誰かの視線を引き寄せる。
ただそれに応じるかどうかで、また新しい物語が動き出すのかもしれない。




