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第28話 交わる視線と、次の一歩

動き続けることで、見えてくるものがある。

気づく瞬間は、ふとした静けさの中に訪れるのかもしれない。


訓練場の空気が、徐々に夕暮れ色に染まり始めていた。

魔力操作の実地訓練を終えたシアンは、肩で息をしながら水筒を手に取る。


「はあ……疲れた……」


思ったより、体力も集中力も使っていた。

自分の魔力の流れを制御するのは、まだまだ荒くて、改善の余地しかなかった。


視線を感じて振り向くと、ロアスが木陰から歩いてくる。


「お前、最後まで見てたのかよ」


返事はないが、近くの石にちょこんと座ると、ロアスは尾をふわりと揺らした。

その仕草に、どこか「やればできる」とでも言いたげな雰囲気がある。


「……バカにしてんのか? まあ、当たったしな。ちょっとだけな」


そう言いながら、シアンは笑った。

ロアスが自分の横に並ぶ。

ふと、その額に光る角の先に、淡い結晶の輝きが見えた。


「魔力の流れ、ちょっと変わったかもしれない。契約してから、少しだけ扱いやすくなった気がするんだ」


ぽつりと呟いた言葉に、ロアスがほんの少しだけ首を傾けた。


「お前さ、何ができるとか教えてくれって言ったけど……」


そこまで言いかけて、シアンは自分のステータスウィンドウを開いた。

自分の変化、ロアスとの繋がり。それらを実感しながら、軽く息を吐く。


「……ありがとな」


ロアスは相変わらず何も言わない。

けれど、そっとその足元に結晶がひとつ、転がるようにして出現した。

小さな、けれど澄んだ光。


それが何を意味するかはわからない。

ただ、不思議と胸の中が、ほんのり温かくなるような気がした。



「よう、戻ったか。ギルドへ寄っていくか?」


街の中心部へと戻ったシアンに、街路で声をかけたのは、昼間と同じ教官NPCのアリオスだった。

どうやら、シアンが迷わずギルドへ向かうことを読んでいたらしい。


ギルドの前では、数人のプレイヤーが賑やかに会話していた。

だが、その中心にいるロアスの姿に気づき、ひそひそと声が漏れる。


「……あれ、幻獣じゃないか?」

「テイマー系? 今じゃレアだよな」


(……目立つなあ)


多少の注目は覚悟していたが、これほどとは思っていなかった。

そっと受付へと足を運び、窓口の女性NPCに声をかける。


「依頼を一件、受けたいんだけど」


「あら、どうぞ。こちらに掲載されているものの中からお選びくださいね」


差し出された板のスクロールには、街近くでの素材収集や配達系の依頼が並んでいた。


(このあたりが無難かな)


そう思いながら指さしたのは、街のパン屋に材料を届けるという依頼。

報酬に、パンのレシピがついてくると書かれていた。


「では、こちらの依頼をお渡しいたしますね。無理はなさらぬように」


「……うん。ありがとう」


依頼書を受け取りながら、心のどこかでふと、楽しみが広がっていくのを感じていた。

料理、魔法、幻獣。

それらを少しずつ、自分の中に取り込んで、育てていく。


旅の形は、決まっていない。

だからこそ、面白い。


気づけば、小さな変化が、歩みの中に積み重なっていた。

焦らず、少しずつ。自分だけの軌跡を描いていけたらいい。


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