第25話 話せるんだ、お前……
契約が成立したあと。
驚きと、静かな喜びが押し寄せてくる。
けれど――話しかけられるとは、思っていなかった。
「……なあ、お前、名前――ロアス、だったよな」
シアンの問いに、白い幻獣は小さく頷いた。
そして、次の瞬間、澄んだ声が耳に届いた。
「はい。契約が結ばれたことで、意思疎通が可能となりました」
「……喋った!?」
シアンは思わず立ち上がる。
ロアスの口は動いていない。それでも、言葉は確かに届いてくる。
「これは“幻獣共鳴”によるテレパシーです。あなたにだけ、私の声が聞こえます」
「……すげえな、そんな機能……。ていうか、普通に敬語なんだな」
「私の性格です」
シアンは戸惑いと笑いを交えて、ロアスを見つめた。
そして、ふと思いついて口にする。
「……お前、今、何ができる?」
「現時点で可能な行動をお伝えします」
ロアスの身体のまわりに小さな氷の粒がふわりと浮かび上がる。
まるでステータスウィンドウが示されるように、幻獣の能力が視覚化された。
【ステータス:シアン】
プレイヤー名:シアン
職業:氷魔法使い/テイマー/料理人
レベル:5
HP:130/130 MP:180/180
ATK:20 DEF:18 INT:55 AGI:28
LUK:32
スキル:
・氷魔法Lv2(冷気弾/氷のつらら)
・魔力操作Lv1(MP消費の最適化)
・料理Lv2(調理成功率UP/焼成の品質UP)
・包丁装備可(武器としても使用可)
・テイマーLv1(契約:ロアス)
・幻獣知識Lv1(特性・弱点把握)
LUK効果:
・料理の「大成功率」+5%
・契約時の好感度補正あり
・スキル派生やクラフト中、稀に“ひらめき”が発生する
【ステータス:ロアス】
種族:氷牙獣
属性:氷
契約者:シアン
レベル:3
HP:180/180 MP:90/90
ATK:42 DEF:30 INT:38 AGI:45
LUK:16
スキル:
・氷牙:氷を纏わせた噛みつき攻撃
・氷鎧:全身を氷で包み、防御力上昇(一定時間)
・蹴撃:鋭い回し蹴りによる物理攻撃。AGI依存
・気配遮断:自然エリアで存在感を希薄化
・結晶共鳴:シアンの魔力と共鳴し、結晶スキルの発動が可能(詳細未解放)
「……料理、地味に上がってるし」
「食べ物の質が高かったことで、料理スキルの成長が促されました」
「そっか。……ありがとな」
ロアスは静かに、シアンの隣に座る。
こうして、ほんの少しずつ――この世界に“ふたり”の生活が馴染んでいく。
やっと、話せた。
正確には“声が聞こえた”って感じだけど、それでも……すごく不思議な気持ち。
ロアスは丁寧で、でもちゃんと“気持ち”を持ってて。
幻獣って、こんなふうに接するものなんだって初めて思えた。
次は……この力で、何をしていこうか。




