表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/101

第24話 パンを焼いて、噴水のそばで

初めてのパン作り。

焼きたてを持って、今日はゆっくりと過ごしてみようと思う。

……だけど、誰かと分け合いたいと思ったのは、たぶん、はじめてだった。


手に入れたレシピカードを確認しながら、シアンは調理台に立っていた。


【レシピ:基本のパン】

・小麦粉 ×3

・水 ×1

・塩 ×1

・火力調整:中温(手動)


手順に従って生地を捏ね、発酵時間を待ち、石窯でじっくりと焼き上げる。

やがて、部屋中に香ばしい匂いが広がった。


「……うまく、できたか?」


取り出したパンは、見事な焼き上がりだった。

ステータスウィンドウには、こう表示されていた。


【スキル:焼きたてパン(保存可能)】を習得しました。


そのまま包みを整え、シアンは街の外れにある噴水へと向かった。


街の中心から少し外れたその場所は、NPCの行き交いも少なく、静かだった。

ベンチに腰掛け、焼きたてのパンを一口。


「……うまい。これなら、誰かに食わせても恥ずかしくないな」


その時だった。


ふと感じる気配。

視線――空気が、わずかに揺れた。


「……来てたのか」


ベンチのすぐ脇に、あの姿が現れる。

白銀の毛並み、鋭い瞳、静かな佇まい。


「街の中って、モンスターは入れない仕様じゃなかったか……?」


けれど、シアンは気づいていた。

この結晶がある限り、“彼”には街の外れのような【低セキュリティエリア】に一時的に現れることが可能なのだと。


つまり――


【条件を満たした一部の幻獣は、結晶保持者の近くに限り、一時的に街エリアへ侵入可能】


静かに現れたロアスに、シアンはパンを差し出す。


「……食うか?」


ロアスは少し躊躇した後、おそるおそるパンを咥えた。

ふわりと尻尾が揺れ、氷の結晶が一瞬だけ舞う。


「……そうか、美味いか」


シアンは微かに笑い、小さく問いかける。


「……なあ、友達になるか?」


一瞬、時が止まったように感じられた。


ロアスはシアンをじっと見つめる。

そして、首をかすかに――確かに、縦に振った。


【テイマースキル:契約ロアス(氷属性)を取得しました】


風が吹き、街の夕暮れがふたりを優しく包んでいく。



はじめての“契約”は、とても静かで、穏やかだった。

ただパンを分け合っただけなのに――それだけで、ちゃんと伝わっていた気がする。


ロアス。

あの視線と、氷の結晶と、さっきのうなずき。

全部が、信じられないくらい大事に思えた。


明日から、また少し世界が変わるかもしれない。

でも今は、ただ――ありがとうって、伝えたくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白い作品 だけど全体的にちょっとアッサリ気味なのがさみしくも思う
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ