第23話 お使いはパン屋へ、結晶は静かに輝いたまま
討伐の報告を終えたら、次のクエストは……ちょっと平和なものにしてみよう。
戦いも大事だけど、俺には“生活”も、きっと大事なはずだから。
街の石畳を踏みしめながら、シアンはギルドへ向かっていた。
討伐クエストを終えた足取りは軽く、何より、あの“白い影”のことが、まだ心に残っていた。
ギルドで報告を済ませると、受付嬢が微笑みながら言った。
「氷魔法で倒したんですね、珍しいです。初期職にしては、なかなかのセンスですよ」
手渡された報酬とともに、冒険者カードには【氷魔法】【料理】の文字が追加されていた。
何かが、少しずつ積み上がっている。
「さて、次は……」
依頼掲示板に目をやると、戦闘ではなく【お使い】系のクエストが並んでいた。
その中の一つ――『パン屋への配送補助』に目が留まる。
場所は、街の中心から少し外れた「麦のかおり亭」。
「いいかもな、ちょっと……気分転換に」
依頼を受けてギルドを出ようとしたとき――
ポケットの中の“結晶”が、ふわりと光を放った。
(また、光ってる……どうして)
周囲の誰も、その光には気づかない。
でもシアンには、確かにそれが“呼ばれている”ように思えた。
依頼の書簡を握りしめ、シアンはパン屋へ向かって歩き出す。
結晶が、服の内側で小さく揺れていた。
⸻
【パン屋にて】
パン屋「麦のかおり亭」は、香ばしい香りに包まれていた。
陽気な店主がシアンを迎え入れ、小麦粉の袋を運ぶ手伝いをする流れに。
手際よく作業を終えると、店主は満足そうに頷いた。
「いやあ助かった助かった! 君、料理するんだって? ちょうどいい」
手渡されたのは、一枚のレシピカード。
『基本のパン:クラストがパリッと、中はもっちり』
「うちの人気レシピさ。特別だよ。頑張って焼いてごらん!」
シアンは思わず笑みをこぼした。
「……これは、戦いより難しいかもな」
パン屋でのお使い、無事完了。
そして報酬は【パンのレシピ】。こういうクエストの積み重ねが、俺らしさなのかもしれない。
そして、結晶はまだ、静かに光を放っている。
それは、ロアスからの“見ているよ”というサイン――
……そんな気がしてならない。




