第22話 二度目の接触、料理が結ぶ距離
焼いたご飯は、誰かのために――。
まだ言葉はなくても、共にいる気配がある。
静かな夜、再び訪れる“あの気配”と小さな交流。
夜の空気は澄んでいて、焚き火の香ばしさだけが微かに残っていた。
串焼きの肉は1本、まだ食べられる状態で、そっと結晶の近くに置いてあった。
「……誰かのために作った」
なんて柄にもないと思いながらも、シアンはそうせずにはいられなかった。
焚き火の火を細め、寝袋にくるまる。
そして静かに、目を閉じた――はずだった。
けれど。
草を踏む音。風を裂く、細く、鋭い気配。
うっすらと目を開けると、月光の下に、淡く光る輪郭が見えた。
あの結晶が震えている。
冷たい夜の中、確かにそこに“誰か”がいる気配。
姿は完全ではない。
けれど、前よりも、ずっと輪郭がはっきりしている。
――白銀の毛並み。
――しなやかな体躯と鋭い爪。
――そして、何よりもその澄んだ瞳。
シアンは起き上がりもせず、ただそっと言った。
「……お前だったんだな」
結晶を一瞥し、言葉を重ねる。
「ロアス」
その瞬間、幻のような存在はぴたりと動きを止めた。
小さく、静かに……それでも確かに反応する。
空気がやわらかく震え、彼の周囲に氷の結晶が一枚、ふわりと舞った。
(やっぱり……そうだ)
ロアスは、警戒しながらも残された串焼きの肉に顔を寄せる。
ひと舐め、そして一口。
火の通りも、香りも――よほど気に入ったのか、静かに、けれどしっかりと食べていく。
その姿を、シアンは何も言わずに見つめていた。
ただ、焚き火の炎がぱちりと鳴る。
ロアスが食べ終え、立ち上がる。
彼の周囲に、また一枚、氷の結晶が舞った。
名残惜しげに、けれど何も言わず、
そのまま彼は霧のように、風とともに姿を消していく。
シアンは、そっと手を伸ばし、結晶を撫でた。
「……ちゃんと、食べてくれたんだな」
返事はない。
だが確かに、温かい余韻だけがその場に残っていた。
今回は、“ロアスとの二度目の接触”を描きました。
名前を呼ぶことで、距離がほんの少しだけ縮まる――
そんな瞬間です。
幻獣との絆が、“言葉”ではなく、“行動”や“感情”で育っていく。
そういう物語が、この作品らしさになるといいなと思っています。




