第19話 知識の扉、その先に
世界は変わった。
NPCに感情が宿り、スキルは行動から育ち始めた。
けれどシアンが向かったのは、街の外でもギルドでもなく――静かな図書館だった。
アップデート明けの朝。
ログインと同時に、世界の“空気”が微かに違うと気づいた。
街の人々――NPCたちの目が、やけに生きていた。
すれ違いざまの挨拶や、ギルド職員の言葉にも、微妙な温度がある。
昨日までは感じなかった、何かが確かに芽生えていた。
だが、シアンは騒ぎには加わらなかった。
向かったのは、街の西にある静かな建物――図書館。
「いらっしゃいませ。……あら、初めてお見かけしますね」
受付にいたのは、落ち着いた雰囲気の女性司書NPC。
視線が合った瞬間、彼女はふわりと笑って本を差し出した。
「もしかして、幻獣についてお調べですか?」
一瞬、息が詰まる。
(もしかして、……結晶のことが?)
「氷の気配を纏ったあなたなら、興味があるのではと思いました」
微笑む彼女に勧められるまま、古びた魔導書を手に取った。
⸻
ページをめくる。
そこには、**“幻獣とは何か”**が淡々と記されていた。
――幻獣とは、この世界と心を重ねる者。
――形なき存在は、感応を通じて姿を得る。
――感情が通じた時、契約が芽吹く。
読み終えたその瞬間、ウィンドウが浮かぶ。
【スキル獲得:幻獣知識Lv1】
幻獣に関する基本的な情報の読解、対話・契約に関わる感応率が上昇します
「……本を読むだけで、スキルがつくのか」
新しい世界の在り方に、ようやく実感が湧いてくる。
シアンは結晶をそっとポーチから取り出す。
(君は、まだ“名前”を持っていない。でも……)
(この世界で“形”になったのなら――)
次に会う時、君に話しかけられるようになりたい。
本を読む → スキル獲得、という流れは
今後の **知識系派生スキル(鑑定・調合・魔法理論など)**の基盤にもなります。




