第16話 いない朝、そして選択
目が覚めた時、彼はいなかった。
代わりに残されていたのは、小さな“結晶”。
それは、ただの氷ではない――幻獣の“かけら”だった。
「……いない、か」
朝の光が差し込むテントの隙間。
昨夜まで確かに隣にいた幻獣――白銀の彼の姿は、どこにもなかった。
温もりの名残すら、すでに風に溶けている。
けれど、そこに――ひとつだけ、“痕跡”があった。
小さな氷の結晶。
手のひらにのるほどのそれは、魔力の流れを宿していて、
ただの氷ではないとシアンはすぐに気づいた。
「……これ」
恐る恐る手を伸ばし、そっと触れる。
冷たい。けれど不思議と痛くない。
肌にぴたりと馴染むような、“知っている”感じがした。
ステータスウィンドウが自動的に反応する。
【特殊アイテム:幻獣結晶(ロアスの欠片)を入手しました】
効果:所有者との感応率に応じて、変化・発展します。
「……やっぱり、ロアス、でいいのかな」
呟いた名前に、結晶がほんの一瞬だけ淡く光った。
シアンはゆっくりと立ち上がる。
この世界に来てまだ数日。
だけど、もう一人じゃないと、そう思えた。
結晶をポーチにしまい、今日も掲示板を開く。
やるべきことは山積みだ。
でも、次に彼と出会う時――その時は、名前を呼んでやれる気がした。
「ロアス」という名前はまだ口にしただけ。
ですが、“彼”がシアンに結晶を残したことで、絆の芽が確かに芽吹きました。
この「幻獣結晶」は、
感応率に応じて力を貸してくれる
シアンが強くなったり、想いが届いた時に変化する
そんな“相棒と繋がる鍵”となるアイテムになります。




