第12話 はじまりの草原と氷のきざし
初めての野営依頼。向かう先は“はじまりの草原”と呼ばれる初級者向けフィールド。
けれど、気を抜けば怪我もありうる実戦地帯。
氷魔法と料理スキル――すべてを武器に、シアンは歩き出す。
陽が沈みかける頃、街の西門を抜けた。
視界いっぱいに広がる草原。それが、《はじまりの草原》。
公式には初級者向けとされているが、油断はできない。
夜間になると小型の魔物が活性化し、体力管理も難しくなる。
「気温は……低めか。氷魔法にはちょうどいい」
草を踏みしめるたび、足元にわずかな霧が立ち上る。
それはフィールドの演出なのか、シアンの魔力に反応しているのか――。
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掲示板にあったとおり、小さなウサギ型の魔物が跳ねていた。
けれど今回の依頼は、彼らではない。
『ホーンウルフ:夜間限定出現。毛皮回収』
氷魔法の射程は短く、連射にも限度がある。
試しに魔力操作で補助しながら、発動を試す。
「《氷牙》」
地面に触れた霜が、小さな牙のように跳ね上がる。
けれど、ノーマルラビットは軽やかにかわして逃げていく。
「……これじゃ、当てられないな」
魔法のタイミングと位置取り――難しさを改めて知る。
けれど、焦りはない。
「使えるかどうかじゃない。使いこなす」
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草原の北側にテントを設置し、保存スープを取り出す。
氷結保存スキルの効果で、ひんやりと冷えている。
口に含むと、ほんのり甘くて優しい味が広がった。
そのときだった。
ふと視線を感じて振り返ると、遠くの丘の上に何かがいた。
――蒼い目。白い毛並み。けれど姿は、まだぼんやりとしか見えない。
「……また、君か」
声に出すと、風が吹き抜けた。
幻だったのかもしれない。けれど、確かにそこに“いた”と感じた。
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夜が始まる。
シアンはそっと包丁の柄を握り直した。
今回は《はじまりの草原》での探索と魔法の実戦を描きました。
まだ距離があるものの、確実に“気配”は近づいています。
次回はホーンウルフとの交戦。そして……新たな“接触”の予感。




