第11話 準備は、ひとりの旅から
掲示板に載っていた新たな依頼は、街から離れた平原地帯。
夜を挟む行動に備え、シアンは初めて“旅支度”を始める。
剣ではなく包丁を、仲間ではなく保存食を――
これはひとりきりで始まる、最初の一歩。
掲示板を開くと、スレッドにはさまざまな依頼情報が飛び交っていた。
『はじまりの平原、ホーンウルフ確認』
『夜間は体力消耗大きいので注意』
『回復ポーションと保存食持ってけ!』
――ホーンウルフの毛皮回収。報酬はそこそこ、経験値も悪くない。
けれど問題は、距離と時間だ。
「一晩、野営か……」
街を出て西へ半日。現地で戦い、夜を越えて帰る。
一人用の依頼としては、やや重め。だが、挑んでみる価値はある。
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シアンはスキルウィンドウを開く。
•氷魔法 Lv1
•魔力操作 Lv1
•包丁スキル(装備可能)
•料理 Lv1
•氷結保存 Lv1
保存スキルの表示に指先で触れると、サブ説明が浮かぶ。
『冷却効果のある料理は、最大24時間まで品質維持可』
『保存対象:スープ・シチュー・ソテー系』
「じゃあ、今回は冷製スープにしよう」
スキル《料理》を起動し、シアンは淡い青色の炎で加熱する。
香味野菜と鶏肉の出汁、少量のミルク。冷やせば、まろやかな冷製スープになる。
調理後、氷魔法を組み合わせる。
『氷結保存:品質A(残り時間:24時間)』
「よし」
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ポーション3本。保存食2種。木製の簡易シェルター。
武器は包丁。氷魔法と魔力操作で支援するスタイル。
準備は整った。
街のゲートを抜けると、夕陽が地平に滲んでいた。
肌を撫でる風は冷たくはないが、確かな緊張を連れてくる。
それでも歩き出す。
また、あの蒼い瞳に出会える気がして――。
今回は初めての“野営依頼”に向けた準備を描きました。
スキルの組み合わせによる「氷結保存」は、料理スキルの進化系として今後も活躍します。
そして、存在が少しずつシアンの心に残っていくようすも注目です。
次回は、いよいよ“夜のフィールド”へ出発。お楽しみに!




