第101話 噂の幼狼、防護服の真価
ギルドの扉を押し開けた瞬間、シアンは普段とは違う空気に気づいた。
ざわめき。視線。低く抑えた囁き。
「……あれだよ、掲示板に書かれてた」
「本当に白銀の幼狼がいる……」
「しかも専用装備、マジでオーダーメイドっぽい」
リントはシアンの横で落ち着かず耳を動かし、しっぽをぴたりと止めている。
「シアン……みんな見てる」
「大丈夫だ。気にするな」シアンは軽く笑って言ったが、内心は驚いていた。ここまで注目を集めるとは思っていなかったのだ。
受付に向かおうとすると、数人のプレイヤーが声をかけてきた。
「君がシアン? テイマーで氷魔法使いって本当か?」
「その幼狼……リントだっけ? 装備すごいな。どこの職人に頼んだんだ?」
「もしよければパーティ組まない? 君みたいなスタイル、珍しいからさ」
リントが不安げにシアンの袖を引っ張った。
シアンは苦笑しつつ答える。
「悪いけど、仲間はもういるから。ソロみたいなもんだけど、俺たちはこれで十分なんだ」
「そっか……残念」
興味津々の視線を浴びながらも、シアンは受付に向かい依頼書を取った。
「ゴブリンの群れ討伐、推奨レベルは12。……今の俺たちならちょうどいい」
草原の外れに広がる廃村跡。そこが今回の討伐対象の巣だった。
木材の影から、小柄なゴブリンたちが次々と姿を現す。
「リント、いけるか?」
「うん! もう怖くない!」
リントは防護服に身を包み、俊敏に前へ駆け出した。ゴブリンの棍棒が振り下ろされるが、布地が光を帯びて衝撃を吸収する。
「いたっ……でも大丈夫!」
一撃を受けても平然と立ち上がり、口元に小さな炎と冷気を集める。
「《霜光弾》!」
白と青の混ざった魔力弾が放たれ、ゴブリンを吹き飛ばした。
「お前……やるな」ロアスがわずかに目を見開く。
「リント、今だ!」シアンが氷魔法で足元を凍らせ、敵の動きを封じる。
その隙にロアスが滑り込み、蹴りで一体を沈めた。
三者三様の連携が自然と噛み合い、ゴブリンたちは次々と倒れていった。
「これが……ぼくの力!」リントが胸を張る。
防護服が揺れ、夕日の光を反射してきらりと輝いた。
討伐を終えてギルドに戻ると、再び視線が集まった。
「やっぱり戦えてるんだな……」
「噂は本当だったか」
「防護服、実戦でも効果抜群らしい」
シアンは周囲の声を無視して、リントの頭を撫でた。
「よく頑張ったな」
「えへへ……シアンのおかげ」
ロアスは黙って頷き、隣に立った。
どれだけ噂になろうとも、この絆があれば揺るがない――そう確信する一日だった。
ギルドでの注目と初めての実戦。リントの防護服が「本物」であると証明され、噂はさらに広がっていきます。次回も18時更新です。