保存される味と、氷の予感
残しておいたスープを見て、シアンは気づいた。
“料理スキル”には保存効果があるらしい。
けれど、それには時間制限があって……。
翌朝。
昨晩のスープを確認するため、シアンはステータスウィンドウを開いた。
装備、所持品、そしてスキル欄。そこには一つ、気になる表示があった。
『保存料理:品質A → B(残り時間:12時間)』
「……劣化するのか」
料理スキルには自動的に保存効果が付与される。
けれど、時間経過と共に品質が落ち、最終的には腐敗する。
『腐敗した料理は、自動で消滅します』
『状態異常「腹痛」「毒」などを引き起こす可能性があります』
「自分で食べるのにもリスクがあるってことか」
少しの落胆と、それ以上に湧いたのは“試してみたい”という好奇心だった。
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スキル詳細を開くと、備考欄に一文があった。
『冷却系スキルとの併用により、保存時間の延長が可能です』
「冷却、ね……」
氷魔法を小さく展開する。手のひらに淡い霜をまとわせ、スープの器へ触れる。
すうっと、湯気が静かに消えた。
『保存料理:品質B(時間延長:+6時間)』
「……やっぱり、いけるんだ」
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直後、ステータスに変化が現れる。
『新スキルを獲得しました』
『氷結保存:料理に氷魔法をかけることで保存効果を高める(Lv1)』
「派生か。氷魔法と料理の……」
いつもなら、戦闘や回復に振られるようなスキルツリー。
だが、これは違う。明らかに自分だけのものだ。
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ふと、思い出す。
霧の中で見かけた、蒼い瞳のあの獣。
“この料理を、もし――誰かと分けられたなら”
そんな思いがまた、胸の奥に浮かび上がる。
「……誰のため、ってわけでもないけど」
否定するように呟いたけれど、心はどこか、温かかった。
今回は「保存料理」のスキル仕様と、氷魔法との派生スキル「氷結保存」の習得を描きました。
クラフト系×戦闘職の複合スキルは、今後もシアンの大きな武器になります。
そして、存在を少しずつ意識していく兆しも……。
次回はいよいよ、“あの依頼”の準備へ――。




