0009.轟音と静寂
冷たい雨の降る予定のない週末 目的の無いきみからのお誘い
待ち合わせはいつものお店 いつものテーブルでいつもの時間
とりとめのない会話と無邪気な笑顔
きみと過ごす緩い時間は とても心地いいけど
ぼくたちが探しているのは こういうことなんだろうか
きみの視線の先にあったのは 額に入ったおぼろげな絵
無機質な壁に佇んでいる
黒い機関車が淡い霧に包まれて かすんだ雨の中を音もなく走っていく
轟音を上げて疾走しているはずの鉄の巨体は ぼやけた光と静寂の中に溶けている
ぼくたちの知りたいことは どこにあるのだろう
探しているものはもやの中 そこにあるかさえもわからない
きみが手にするマグカップに 入っているのは甘い感覚
だけどきみが求めているのは それだけなのだろうか
ぼくたちの行く先は淡い霧の中 音もなく走っていく
いつかなにかを 見つけるだろうか
いまあるのは おぼろげな期待だけ
ぼくたちはどうしたいんだろう
唐突な質問に きみはちょっとだけ驚いた表情
でもまたすぐにいつものように笑い出す
なにを難しい顔をしているのかと思ったら 青春の悩みかね少年よ
おどけた口調で話すきみに ぼくはちょっと不機嫌になる
どうしたいかだって? わたしはきみとこうしていたい
今日も明日も明後日も 来週も来月も来年も 10年後もその先も
わたしはそれで幸せだよ でもきみは違うのかな?
きみのはっきりとした答えに 今度はぼくが一瞬言葉を失う
ふたりでこうしているだけで幸せだよ
悩みも戸惑いもない表情をして きみはぼくを見つめてる
水滴でくもった窓の外は 白くかすんだ街並みと凍えそうな湿った雪
ぼくの曖昧な不安など きみには全く取るに足らないことのよう
さっきまでのもやもやが ひと息に吹き飛ばされたような感覚
気分が沈んていたのか 変に暗く考えてしまっていたのか
どうしたいかなんてぼくだって きみと一緒にいたいなんてこと
そんなことは確かに わかりきったこと
本当ならぼくがそんな言葉を きみに伝えたかったはずなのに
少しぎこちなく きみから視線を逸らして頷いて
それからもう一度きみを見て きみはぼくの100倍は賢いと思う
なんて答えると きみは呆れた顔をして
何よそれ とか言っている
マグカップに入っている白と緑の液体は 甘くてちょっと苦い味
だけどさっきまでよりは ずっとすっきりした気分
壁の絵の機関車が走るその上の空は
雨雲が晴れていくように見えた
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