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蒼白のリヴァイアサン  作者: 黒木箱 末宝
海洋冒険編
8/33

エルセラリウム

「──ミュートします」


 どこか遠くを見るような目で海面を見上げ、何かを呟くシエラ。その目が、何かに呼応するかのように瞬きを繰り返している。


 その肩に、一つの手が伸び。


「──はい、何でしょう」

「いや~ありがとうシエラ。こんなに楽しいことは久し振りだ。……どうかしたの?」

「……?」


 その正体は、魚達への餌やりを満喫していた流児だった。

 流児の存在を認識したシエラは、その言葉に首を振って答える。


「──問題ありません」

「……そう? まあ、ずいぶんと待たせちゃったからね」

「……!」


 手を合わせ「ごめんね?」と謝る流児に、シエラは微笑みを返し、出口への案内を再開する。




 シエラと流児は再び手を繋いで先へと進む。


 そこは、海底に咲く青と桃色のハイビスカス──ティア・マリアの奥へと続く道。


 そしてその先にあったのは、大きな門だった。


「おー、大きいな……」

「……!」

「──扉を開きます」


 見上げてもその全貌が見えない程に大きな門。それに向かって、シエラが手を向ける。

 すると、シエラの手から光の粒子が現れ、門へと向かって行く。

 今さらそんなことに驚かなくなった流児は、そのまま門の観察を続ける。


 門には、所々が欠けていたり、何かが張り付いていたりして、その表面の様子がよく分からない。

 しかし、視野を広めて全体を見てみると、一つの絵のようなものが描かれていることに気付いた。


「これは……うおっまぶしっ!?」

「……!?」


 絵を注視する流児に、光が襲い掛かる。

 シエラが放った光が、門へと届いたのだ。

 それが起動の合図になっていたのか、門が轟音を立てて開いて行く。


「おおー……ん、あれは?」


 門の開く振動で、門の表面やその周辺にこびり付いた物が剥がれ落ちて行く。

 そこを見ると、隠れていた絵の全貌や、門の上で黄色の光を放つ紋様が見えた。


 門の絵は何の変哲もない。それはこの場所を示す様な、ティア・マリアとその周囲を泳ぐ海洋生物の絵だった。

 しかし、その門の上で黄色の光を放つ紋様には、流児は違和感を感じざる負えない。


(海中で一番目立つ黄色に、渦に向かって進む、見覚えのある異形……何の意味があるんだ?)

「──行きますよ」

「あっちょっと──まあ、いいか……」


 あと少しで何かに気付きそうだったが、しかし、時間切れ。シエラが流児の手を引き、門へと進み始めたのだ。

 不意の動きに驚き、その刺激で出掛かっていた何かが引っ込んでしまう。

 だが、流児の目的である端末は回収でき、後はシエラの指示に従い、元の世界に帰るだけだ。


 そう思考を切り替えようとした──その時だった。


「──これは……何なんだ……?」


 門の奥、その通路。

 そこに照らし出された、文字にも見える爪痕と波紋の羅列、先程見た物と同じ様な癖のある壁画。

 そこには、未知且つ様々な異形達が、所狭しと描かれていた。


「……化け物が指さして、何か言って……注意? ……何なんだ?」


 混乱する頭で、引っ掛かった何かを引きずり出そうと考える。すると、シエラが流児の疑問に答えた。


「──取り扱い説明画です」

「説明画……? 説明書か! なるほど、それならこの奇妙な壁画に説明が付く……ん、取り扱い……?」


 シエラの言う言葉に違和感を持ち、流児は気付いてしまう。


「え、じゃあ……ここは……ここはっ、あの化け物の同種が造った……製品……?」

「──はい。エルセラリウム【(バージョン).灰砂利世代】です」


 たどり着いて得た考えを、シエラが真実を語り確定する。

 流児は乱れる気を抑えながら思考を続ける。奇妙な癖のある壁画は、デフォルメされたキャラクターで、爪痕や波紋は文字──よくよく思い出せば、端末にいつの間にか入っていたアプリにも、その文字が表示されていた。

 それなら、この様々な海は、シエラの言う通りアクアリウムの様な水槽で、あの海流はエレベーターの様な道。

 巨大な門の上で光を放っていたあの奇妙な絵は──


「……非常口への案内板……あ、ティア・マリア!」


 ふと思い付いて端末を取り出し、中心が桃色の青いハイビスカスのアイコンを押す。

 すると、流児の想像した通りにアプリケーションとしてそれが起動する。


「……製品……説明……」


 メニューを開き、ヘルプを選択。すると、流児の認識の出来る文字で製品説明の欄を見付ける。


「ハハハッ……ここは、作り物の世界で……俺は、本当に……」

「──対象のバイタルに異常発生。対処します」

「……」


 新たに生まれた不安とか、元の世界へ帰れるかとか、様々な感情が流児の中で渦を巻く。

 泣きたいのか叫びたいのか、自身でも理解できない感情に襲われる。そんな流児を落ち着かせるべく、シエラは流児を抱き締めてその背を撫で、ガザミは真似するように頭を撫でる。


「グスッ……ふふ、ありがとう、もう大丈夫……」

「──バイタル不安定。本当に大丈夫ですか?」

「……!」

「ああ、大丈夫。もう、いっそ楽しむ事にするよ……」


 シエラとガザミの言葉無き励ましに流児は笑顔で答え、気持ちを新たにして先へとすすむのだった。

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