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第7話 唐突な誘い

 初めてのタンデムツーリングで、田中美希が山田万里香の下の名前を呼び、微妙な空気感になってしまった後のこと。


 美希はどうにも、彼女との「距離感」を感じてしまい、次のツーリングというか廃墟巡りを誘いにくいと思うようになっていた。


 その間に、梅雨は明け、猛烈な暑さが襲ってきた。


 群馬県は「海なし県」で、内陸に位置し、全体的に夏は暑い。


 高崎市は、連日、最高気温が35度に迫る猛暑となっており、その暑さもあり、美希は尻込みしていた。


(どうするかなあ)

 どうにも声をかけづらい雰囲気になっており、ただでさえ無口で、不愛想で、社交的ではない山田万里香は、いつものようにクラスで「浮いて」おり、休み時間は一人で本を読んでいるか、スマホをいじっていた。


 美希は、もうすぐ夏休み期間に入るため、できればその前に、もう一度、彼女と一緒に出掛け、少しでも仲良くなりたいと画策していた。


 そんなある日の休み時間。


 美希が友人たちと一緒に学食に行って昼食を食べて、教室に戻る途中。


―ピロン―


 彼女のスマホから音が鳴った。


 見ると、ショートメッセージだった。

 開くと、山田さんからの通知だった。


 彼女は、一般的な女子高生や若者が好んで使う、通知アプリを使わず、スマホに搭載されているショートメッセージを使う。


 恐らく、面倒臭がりで、かつ無口な彼女にはこちらの方が都合がいいのだろう。


―放課後、駐輪場に来て―


 相変わらず、何を考えているのかわらかない、短文のメッセージが飛んできた。


 半信半疑ながらも、教室に戻って、教室の後ろの座席を見ると。

 彼女は、何事もなかったかのように、今時珍しい紙の本を読んでいた。


 一応、


―わかった―


 とだけ返信をして、午後の授業を受ける美希。


 放課後、約束通り、真っ直ぐに駐輪場に向かった。

 美希も、そして万里香も部活動をしていない、いわゆる帰宅部だったから、特に用事がなければ放課後は真っ直ぐに帰るだろう。


 そして、自転車通学の美希、バイク通学の万里香は共に、どのみち駐輪場に行くことになる。


 彼女は、愛車のグロム125ccのシートに腰かけて、手持無沙汰気味にスマホをいじっていた。


「山田さん」

 以前のことが頭を横切り、若干、遠慮がちに声をかける美希に、万里香は無表情のまま、顔を上げた。


「今度、足尾に行くけど、来る?」

 唐突だった。


「足尾? ってどこ?」

 そのことに、彼女自身は不服そうに、心なしか表情を曇らせたように、美希には思えた。


「栃木県」

「えっ。隣の県じゃない。そのバイクで行けるの?」


「行ける。理論上、日本のどこでも」

 そう豪語する万里香だが、美希にはこんなオモチャのような小さなバイクで長距離を走るのは不安しかなかった。


「どれくらいかかるの?」

「2時間くらい」

 すでに事前に調べていたのだろう。淀みない回答が万里香の口から発せられた。


「遠いなあ」

「別に来たくないなら、いい」

 相変わらず素っ気ないというか、マイペースな万里香の口調に、そして全く変わらない表情に、美希は思わず焦り気味に、


「わかった。行くよ」

 とだけ返答していた。


「じゃあ、次の日曜日、朝8時に、北高崎駅で」

「うん」


 待ち合わせ場所は、前回と同じく北高崎駅だった。


 そして、この「足尾」こそ、まさに「廃墟」にふさわしい、「忘れられた場所」に近い不思議な場所だった。


 鉄道マニアかと思われた万里香の、本格的な廃墟ツーリングが始まろうとしていた。

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