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第12話 廃墟への道

 ということで、8月頭。


 夏休み期間中に、「福島県廃墟ツアー」が計画された。


 計画自体は、同じバイク乗りの山田万里香と、高橋菜々子が連絡を取り合い、1泊2日の計画となった。


 問題はルートと時間だが、高崎から下道だけで福島県の「浜通り」と呼ばれる、国道6号線まで、最速でも6時間以上かかる。


 その上、今回は、宇都宮に住む、高橋菜々子と「待ち合わせ」をするため、一旦、高崎から道の駅うつのみや ろまんちっく村に立ち寄り、そこから、福島県を目指すことになった。


 だが、それでも、高崎から日光を経由して、道の駅まで約3時間。そこから国道6号の廃墟があるエリアまで、およそ3時間40分。


 今までのツーリングの中でも、「最長」の距離と、「最大」の時間を要することになる。


 それでも、彼女、特に山田さんの「廃墟熱」は衰えるどころか、燃え上がり、とんとん拍子に決まっていた。


 バイクに乗らない、というより運転できない田中美希は知らなかったが、元々、バイク乗りは「フットワークが軽い」。


 決めたら、翌日どころか、その日のうちにすぐ目的地に出発して、宿さえ決めない者もいるという。


 今回は、3人のため、一応、双葉町ふたばまちに宿を取っていた。


 そして、当日の朝。


 やはりというべきか、いつものように北高崎駅を待ち合わせに決めた、山田に従って、美希は駅に向かう。


 今回は、自転車で向かった上、前回、山田から指摘されたように、「スニーカー」を履いて、念のために、薄い長袖シャツを着て、チノパンを履いてきた。


 だが、

(クソ暑い)

 時期は、盛夏の8月上旬。


 ギラギラと容赦なく照り付ける、陽光が眩しすぎて、早くも体力を奪われるような暑さだった。


 そんな中、相変わらず涼しい顔で、バイクのシートに腰かけている、山田に合流。


 シートに跨り、ヘルメットをかぶり出発する。

 ルートは、結局、以前と同じように、わたらせ渓谷鉄道沿いに進んで、栃木県の日光に抜けて、そこから道の駅を目指すことになる。


 群馬県は、公共交通機関より、圧倒的に車社会だ。

 それでも都市部は、交通量が多いが、田舎になると快適なルートになる。


 朝の7時には出発し、山間部を越えて、少しは涼しく感じるものの、すぐに灼熱地獄と化す。

 幸いだったのは、観光地である日光が、宇都宮方面から来る対向車線は混んでいたが、真逆の宇都宮に向かう方向は、午前中のため、空いていたことだった。


 バイクは、炎天下で信号待ちなどの「止まる」行為を繰り返すと、「地獄」のように暑い。それだけでも美希は助かったと思っていた。


 無事、10時頃に道の駅うつのみや ろまんちっく村に到着。


 高橋菜々子は、すでに来ていて、手を振っていた。

 彼女は、夏らしい水色の薄い長袖シャツに、ジーンズ姿。白いヘルメットが少しだけ涼し気に感じられた。

 ちなみに、山田万里香のヘルメットの色は、黒。真夏には太陽の光がモロに当たり、暑そうに見える。


「じゃ、行きましょうか」

 一応、1個年下の、菜々子は明るくて、礼儀正しい子で、誰に対しても態度が変わらない。こういう性格の子は、「嫌味」がないから、誰からも好かれる傾向にある。


 彼女は、先輩ということで、山田に先頭を譲って、自分は後ろから追いかける。

 だが、実際には、排気量の差で、菜々子が乗るセローの方が「速い」と言える。セローの排気量は250cc。対して、万里香の乗るグロムの排気量は125cc。単純に考えて倍だった。


 それでも文句一つ言わず、彼女はニコニコと笑顔を浮かべながらも、着いてくる。ある意味、貴重な「癒し系少女」だと思う、美希だった。


 途中、何度も休憩を挟み、昼食を食べ、ようやく福島県の国道6号線に入る頃には、午後2時を回っていた。


 そして、そのルートに入る。


 福島県いわき市から国道6号に入り、広野町ひろのまち、そして楢葉町ならはまちに入った。


 その辺りから、少しずつ沿道の様子が変わってくる。


 一般的な沿道の風景から、少しずつ「寂れて」来るのがわかってくる。福島第一原子力発電所がある、大熊町おおくままち、そしてその隣の双葉町。


 いよいよそこから先は、「震災の爪痕」が今も残る「帰宅困難地域」となる。


 国道6号線自体は、確かに「生きている」が、それ以外が、「死んでいる」区間とも言える。


 沿道には、明らかに放置された商店、ガソリンスタンド、コンビニ、住宅などが次々と出てくる上、衝撃的だったのは、「バリケード」だ。


 明らかに、侵入者を拒む、鉄柵のバリケードがあちらこちらに設置され、「この先、帰宅困難地域につき通行止め」と書いた看板が立っていたり、所々ではガードマンが立っている。


(これは、すごい……)

 ある意味、生きてきた中で最も衝撃を受けたのが、田中美希だった。


 東日本大震災からすでに10年以上が経過しているのに、ここだけは「別世界」のような「時が止まった」風景が流れている。


 それは、もちろん「否定的」な意味でのことで、地震や津波による被害はなくとも、「原発」という人災によって、長く続いた人々の暮らしが「破壊された」証跡だった。


 このまま、まるで「終末世界」のような景色がどこまでも続く、この世界において、先頭を行く山田万里香は、信号機を左折した。


 そして、沿道でバイクを停めた。


 その場所は、双葉駅だった。

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