第七回 14
しばらくして丫鬟が菓子を宝玉たちの前に並べると、宝玉は言った。
「ぼくたちはお酒を飲まないから、お菓子は奥の小さな炕のところに並べておいてもらえればいいよ。その方がみんなも迷惑でないでしょう?」
そう言いながら二人は奥の間に向かった。
秦氏は熙鳳のために酒や菓子の支度をしながら、慌ただしく宝玉のところへ来て言った。
「宝叔、秦鐘の言い方に気に食わないことがあっても、私に免じて許してくださいね。秦鐘ったら、人見知りの意地っ張りで、人に合わせようとしないんですから」
宝玉は笑って取り合わず、
「もうお戻りください、承知いたしました。」
と言った。
秦氏はなおも納得いかない様子で、秦鐘に一言、二言耳打ちしてから、ようやく熙鳳のところに戻っていった。
熙鳳と尤氏は人を遣わして、
「向こうには何でもあるので、遠慮なく言ってくださいということです」
と言わせたが、宝玉はただ「うん、うん」と空返事をするだけで、食事のことはそっちのけで、秦鐘に家のことなどを尋ねていた。秦鐘がいうのには、
「業師は昨年亡くなり、父も年老いて、身体も思うままにならなくなっているうえに、公務も忙しく、まだ新たに師を招くにはいたっていません。今のところ、ただ家で以前習ったことを繰り返し勉強しているにすぎません。ですが学問をするというのなら、まず知己と語らい、大勢で討論をしてこそ進歩してゆくものです……」
宝玉は言い終えるのを待たずに言った。
「そのとおりだよ! うちには家塾があって、延師を招けない一族が入塾して勉強しているんだ。ぼくのいとこたちも塾にいるから、それに随いて学ぶこともできるはずだよ」
「本当ですか?」
秦鐘が身を乗り出す。
「ぼく自身、うちの業師が昨年お家に戻られたので、なかなか勉強に手をつけられていなくて。父の考えでは業師が戻るまで、とりあえず家塾に通って今までのところを復習しておき、業師が帰ってきたら家で教わるようにしたらどうか、ということだった」
「そうだったんですね」
秦鐘がうなずく。
「でも、祖母が心配していてね」
宝玉は苦笑いをした。
「まず言われたのが、家塾は子どもが多すぎて、ふざけあうことになるんじゃないか、って。ぼくは何も言えなかったよ。そのうえ塾の話が出たとき、あいにくぼくが病気をしていてね、とりあえず見合わせてたんだ」
秦鐘がこくこくうなずくと、宝玉は笑って、
「でもちょうど良かった。君のお父さんも勉強のことで心配されてたんだよね。今日帰ったらお父さんにこの話をして、塾に通わせてもらったらどうかな? ぼくも一緒に通うから、きっとお互い良い勉強になるよ。素晴らしいと思わない?」




