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紅楼夢  作者: 翡翠
第七回 栄府(えいふ)に密(みっ)し 熙鳳(きほう)二賈(にか)と戯(たわむ)れ 寧府(ねいふ)に宴(うたげ)し 宝玉(ほうぎょく)秦鐘(しんしょう)に会う
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第七回 13

食事を済ませてしまうと、尤氏、王熙鳳、秦氏の三名は骨牌遊こっぱいあそびにきょうじた。その間、宝玉と秦鐘は二人取り残され、ふと目が合うとぎこちなく笑った。

 宝玉は秦鐘のふるまいがすぐれているのを目にして、胸はぽっかり何かを失ったようになり、しばらくぼうっとしていたが、ふつふつと思いが浮かんでき、

「こんな子が世の中にいたなんて! 秦鐘かれに比べれば、ぼくなんて泥にまみれたぶたか、死にかけの犬のようなものだ。何でぼくは侯門公侯こうもんこうこうの家なんかに生まれてしまったんだろう。もしぼくが食うものにも困るような寒門かんもんに生まれていたとしたら、もっと早くに秦鐘と仲良くなれたし、無駄な時間を過ごすこともなかったのに! ぼくが秦鐘にまさっているものがあるとしたら、ちんけな身分というものだけだ。今まとっているこの錦繍きんしゅうきぬも、ち木にまとわせているようなもの、いくら美食びしょく美酒びしゅらおうとも、糞壺ふんつぼ泥溝でいこうに流れていくだけだ。『富貴ふうき』の二字がどんなにぼくをどくしてしまったんだろう!」

そこに考えがいたるや、おもむろにむなしさが広がっていく。


 このとき秦鐘も同じように考えにひたっていた。宝玉の容貌ようぼうがとりわけ美しく、金の冠にきらびやかなきぬ羽織はおり、下女めしつかい大勢おおぜい従者じゅうしゃと連れているのを見て思った。

「なるほど、宝玉がみんなから溺愛ちやほやされているわけだ。なんで私は貧賤ひんせんの家に生まれてしまったのだろう。彼と寝食しんしょくともにし、親しくつきあうことさえできない。ああ、『貧窮ひんきゅう』という二字に縛られるとはなんて不幸ふこうなんだろう」

 二人ともそんなとりとめのない考えにひたっていたところ、宝玉がついに口を開き、

「……君は何の書を読んでいるの?」

 とふるえる唇で聞いた。

 秦鐘はしばらく考えたのち、

「し、周礼しゅらいです」

 とうつむきながら答えた。

「へぇ、周礼しゅらい! 君はずいぶんおりこうさんなんだね」

 宝玉がいくぶんがっかりした調子ちょうしで言うと、秦鐘は慌てて、

「違うんです! わ、私は父からも姉からも日々の行いが良くないと注意されているんです。だから周礼しゅらいをぜひ読むようにとすすめられてて……」

「なあんだ」

 宝玉のひとみに明るさがもどってくる。

「ぼくもそうなんだ。父上や老師せんせいから読まされるものときたら、周礼しゅらい礼記らいき儀礼ぎれい、そんな堅苦かたくるしい書ばっかりさ」

「え! 宝叔ほうおじさまもそうなんですか?」

 宝玉は苦笑くしょうする

「どこのやしきも同じだね。誰もぼくらのことなんて分からないんだ」

 すると今度は秦鐘の表情がぱっと明るくなった。二人は時が経つのも忘れて親しく語り合った。

 


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