第七回 11
寧府の儀門まで熙鳳と宝玉がやってくると、賈珍の妻の尤氏と賈蓉の妻の秦氏が大勢の妾、丫鬟、媳婦たちが迎えた。
尤氏は熙鳳の耳に口を近づけながら、
「今日は太太がいらっしゃらないから、ずいぶん気が抜けているじゃないの」
そう冗談を言うと、熙鳳も尤氏に笑いかけながら、
「まぁ、なんてことを。太太がいらっしゃらないから、粗相ができないと、これでも緊張しているのよ」
「そうなの? でも、こちらの公子はそんなことなさそうね。さぁ、行きましょう」
尤氏は宝玉の手をひきながら、上房に入るとそれぞれに席についた。秦氏が手ずからお茶を差し上げ、
「ようこそいらっしゃいました」
と挨拶を済ませると、熙鳳が言った。
「で、今日は私を呼んで何をするつもり? 何かいいものでもくださるのかしら。それなら早くよこしなさい。まだ私には山ほど用があるんだから」
熙鳳は尤氏に目くばせをし、尤氏が口を開きかけると、控えていた妾たちが笑って言った。
「二の奶奶、お見えにならなかったのならともかく、こうしてお越しになったからにはもう帰しませんよ」
そんなふうに談笑していると、賈蓉がひょっこりと顔を出した。
「今日は珍の大哥哥はいらっしゃらないの?」
そう宝玉が聞くと、尤氏が、
「敬の老爺さまのところにご機嫌をうかがいに行かれましたよ。あなたもここに座ってばかりでは退屈でしょう。そのあたりを散歩してこられたら?」
秦氏が笑いながら言った。
「ちょうどいいことに、このまえ宝おじさまが会いたいとおっしゃっていた私の弟が。今日はここに来ています。たぶん書房にいると思いますわ。宝おじさま、よかったら会いにいかれたら?」
宝玉はそれを聞くと、すぐに炕から降りて会いに行こうとした。
尤氏も熙鳳もあわてて言った。
「落ち着きなさい。そんなに慌てなくてもいいでしょう」
さらに熙鳳が眉をつりあげる。
「いい? ちゃんと気をつけていくのよ。無礼があったり、粗相のないように。まったく、老太太と一緒に来ているときは気が楽なのに。いろいろなことに気を配らなくちゃならないんだから」
熙鳳は笑いながら言った。
「いっそのことその秦小老爺をこちらに呼んでらっしゃいよ。私も一目見てみたいわ」
尤氏は笑いながら言った。
「やめて! わざわざあなたが会うことはないわ。あの子はうちの子たちとは全然違うの。うちの子たちはみんながさつだけど、よその子ったらとても行儀がいいのねぇ。あんなおとなしい子が熙鳳みたいな破落戸に会ったら、恥ずかしい思いをせずにはいられないわ」
熙鳳は高笑いしながら言った。
「誰が恥ずかしい思いをするですって? 私がせっかく世のバカな人たちを笑わないでいてあげてるってのに、そんな子どもに笑われるなんて」
賈蓉は熙鳳をなだめるように言う。
「いえ、そういうことじゃないんです。あの子は恥ずかしがりやで、大勢の中に出たことがないんです。だからかえって嬸子がお怒りになるんじゃないかと思って」
尤氏が苦笑いをしながら賈蓉に耳打ちする。
「気にしないで。分かって言ってるのよ」
熙鳳は言った。
「おだまり! どんな子だろうと私は見ておきたいの! もうくだらない言い訳はおやめなさい。早く連れてこないと私の悪口が火を噴くわよ」
賈蓉は笑いながら言った。
「参りました。逆らいません。連れてまいります」




