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紅楼夢  作者: 翡翠
第七回 栄府(えいふ)に密(みっ)し 熙鳳(きほう)二賈(にか)と戯(たわむ)れ 寧府(ねいふ)に宴(うたげ)し 宝玉(ほうぎょく)秦鐘(しんしょう)に会う
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第七回 6


 惜春は丫鬟じじょ入画にゅうがはこをしまわせる。

 すると周のおかみは二人のそばに座り、

智能ちのう、あんたはいつここに来たの? それにあんたは女庵主おんなあんしゅ、あのつるっぱげのくそばばあ一緒いっしょに来たはずでしょ? あの禿はげは今どこにいるの?」

「私たちは朝早くに栄国府へ着きました。二人で太太おくさまとお会いしたあと、私はここへ残り、庵主あんしゅ老爺だんなさまのおやしきに向かわれました」

 周のおかみはうすい笑いを浮かべる。

「へえ、于の老爺だんなのところにね……。智能、十五日はもう過ぎているでしょ?水月庵すいげつあんはもう香具こうぐ銀子ぎんすはもらったの?」

 智能は首を振って言った。

「私はぞんじません」

 惜春は周のおかみの言葉を聞いて尋ねた。

「今は月ごとに寺に寄進きしんする銀子ぎんすは誰があずかってるの?」

余信よしんあずかっています」

 周のおかみが言うや、惜春は笑った。

「なるほど! 庵主あんしゅが来るとすぐに余信のところのおんなが駆け寄ってきて、こそこそ話していたのはそのことだったのね」

  それから周のおかみは智能とひとしきり話したあと、熙鳳のところへ向かった。

  周のおかみがすっかり出て行ってしまってから、惜春は智能にぽつりとこぼす。

「誰にも私たちのことなんて分からないわ。もし出家しゅっけするのなら根無ねなぐさのようにしてみたい」


周のおかみが路地ろじをつたって李紈のへや裏窓うらまどを通り過ぎると、玻璃はり窓越まどごしに李紈がこうの上で横になっているのが見えた。

 さらに西の花垣はながきを通りぎ、西の角門かどもんをくぐって熙鳳きほうやしきに入った。廊下ろうかつたっておくの間までたどり着くと、小丫頭しょうじじょ豊児ほうじが熙鳳のへや敷居しきいこしかけていて、周のおかみを見るや、手をって、東のへやに行くように合図あいずした。周のおかみは思わず空を見て、考えこんだ。

 まだ太陽たいようのぼっている。間違まちがいなく昼間ひるまだ。でも、豊児があそこで見張みはりのようにすわっているということは……。

 周のおかみはある答えにたどり着いたが、もうそのことでほほめたり、何を昼間から……、といきどおったりする年齢ねんれいはとうに過ぎている。

 音を立てないように急いで東のへやに向かうとそこには奶子うばが大姐を寝かしつけていた。周のおかみは少し思案しあんして、奶子うばたずねた。

「もう一人の姐兒おじょうちゃん、鳳の姐兒おじょうちゃんもまだお昼寝ひるねのようね。あちらは寝すぎのようだからもうそろそろ起こしてあげたら?」

 皮肉ひにくっぽく言ってやると奶子うばは激しく首を横に振った。

 そんなことを言っていると、向こう側から笑い声が聞こえ、あんじょう、そこには賈璉の笑い声も混じっていた。


 続いてへやとびらが開き、平児が大きなどうたらいを持って出てきた。

 平児は豊児にたらいを差し出しながら声をかける。

「お水をんで、中に持っていって」

 平児はこちらへやってきて、呑気のんきにくつろいでいる周のおかみを見つけると。無表情むひょうじょうたずねた。

「あなた様は、“また”こちらにやってきたのね。何のご用かしら?」

 周のおかみは戦慄せんりつする。

また、と言った。この通房丫頭つうぼうあとうは私が一度豊児に拒絶きょぜつされたことを知っている。

周のおかみは慌てて立ち上がり、この年若としわか通房丫頭つうぼうあとうはこを差し出した。

「薛の太太おくさまからのお花をお届けに参りました」

「お花?」

 平児はくびをかしげながら、はこの中身を確認かくにんした。そこからついのものを二組ふたくみ取り出すと、おくもどっていった。

 しばらくして、そろいの一挿ひとさしを持ち帰ると、

「これを蓉の大奶奶おおおくさまにおつけして差し上げて」

 と彩明さいめいんで言いつけた。それから周のおかみに向きなおると、

「あなた様こそお昼寝をした方がいいと思いますよ」

 と笑った。

 周のおかみの顔がさらに引きつる。

「その前に薛の太太おくさまにお礼を言っておいてくださいね」

 平児が続けた。


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