第七回 4
すると簾が揺れて音がし、一人の少女がおずおずと顔を出した。
「何かご用でしょうか、奶奶」
そう所在なげに言うのに、周のおかみはそれが先ほど金釧児と遊んでいた女の子であることに気づく。
「函の中のお花を持っておいで」
香菱は「はい」とささやくような声で返事をし、奥から小さな錦の函を捧げるように持ってきた。
「……お花?」
周のおかみはつい口に出してしまった。こんな函のなかになぜ花が入っているのだろう。
薛のおばさまは笑いながら言った。
「本物の花じゃないわ。花は花でもこれは宮中で流行っている髪飾りで、紗を重ねて作った花なの。ここに十二本あるわ。こんな素晴らしいもの、そのまま置いておくのはもったいないでしょう?
それで、栄国府の娘さんたちに挿してもらおう、と思いついたのよ。本当は昨日渡そうと思っていたんだけど、うっかり忘れてしまって。
あなたが来てくれてちょうどよかったわ。持って行ってちょうだい」
薛のおばさまは函のなかから、色とりどりの紗堆花を取り出し、
「栄国府の三人の姑娘にはそれぞれ一対になっているものを。残りの六本のうち、二本を林の姑娘に。四本を鳳ちゃんにあげてちょうだい」
周のおかみは迎春・探春・惜春の姑娘に一対のものを…、と頭のなかで繰り返した。
王夫人は言った。
「残しておいて、おたくの宝ちゃんに使ってもらえばいいのに。なんで他の子にあげようなんて思ったの?」
薛のおばさまは笑って言った。
「“姨娘”はご存じないでしょうけど、あなたの姪っ子はとても変わってるんですよ。こういう飾り物にもおしろいにも興味がないんですから」
そう言っているうちに周のおかみは門から函を持って出て行く。門のそばで、金釧児が端居に腰かけながら日向ぼっこをしているのが見えた。
「さっきの香菱って小丫頭、薛の公子が上京の途中で買い求めた娘?」
「ええ」
「そのおかげで人死にが出たとか、裁判沙汰になったとか」
「間違いないわ」
二人で話していると、香菱がにこにこしながらやってきた。
周のおかみは思わず手を取り、じっと香菱を見つめ、金釧児に笑って言った。
「なんてきれいな子。この品の良さはうちの東の邸にいらっしゃる蓉さまの大奶奶に似てるわね」
金釧児は少し考えた末に微笑んだ。
「私もそう思います」
ただの小丫頭じゃない。周のおかみは秦氏に似た雰囲気を持つ香菱が、どうしても気になり、いろいろと尋ねてみたくなった。




