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紅楼夢  作者: 翡翠
第七回 栄府(えいふ)に密(みっ)し 熙鳳(きほう)二賈(にか)と戯(たわむ)れ 寧府(ねいふ)に宴(うたげ)し 宝玉(ほうぎょく)秦鐘(しんしょう)に会う
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第七回 3

 「この処方しょほうを使うのはとてもおすすめできません。ややこしいことが多すぎて、身も心もつかててしまいますわ。

 というのも、使う薬の材料はどれも手に入りにくいものばかりで、うまく揃うことなんてまずありません。たとえば――春に咲く白牡丹はくぼたんしべを十二両、夏に咲く白いはすの蕊を十二両、秋の白芙蓉の蕊を十二両、そして冬に咲く白梅はくばいの蕊を十二両。これら四種類の花の蕊を、翌年の春分しゅんぶんの日に干してから、例の薬の粉と混ぜて、すべてを一緒に細かくすりつぶすのです。さらに必要なのが、「雨水うすい」の日に降った雨水あまみず十二銭じゅうにせん分……」

 

 周のおかみはおどろいて言った。

「あれ! そんな具合ぐあいでは、一年か二年はかかってしまうじゃないですか。もしその雨水うすいの日に雨が降らなかったらどうなさるんです?」

 宝釵は笑って言った。

「だから言ってるんです。そんな都合よく雨なんて降りませんわ。降らなかったら、また来年まで待つしかありません。他にも――「白露はくろ」の日の露を十二銭せん分、「霜降そうこう」の日の霜を十二銭分、「小雪しょうせつ」の日の雪を十二銭分。これらすべてを混ぜ合わせて薬にし、さらに蜂蜜はちみつを十二銭、白砂糖を十二銭加え、龍眼りゅうがんの実の大きさに丸めるのです」

 周のおかみはこれを聞くと笑いながら言った。

阿弥陀仏あみだぶつ! まったくあきれるような話ですわね。十年待ってもこれほどうまくはいきませんよ!」

 宝釵はため息をつく。

「そのとおりですわ。でもありがたいことにそのお話を聞いてから、一、二年でたまたますべてそろえることができたのです。みなみからこちらへ持ち寄り、今はなしの木の根元ねもとに埋めております」

 周のおかみが言った。

「その薬は何とおっしゃるんです?」

「“冷香丸れいこうがん”とんでいます。和尚おしょうさまがそうおっしゃっていました」

 周のおかみは大きくため息をついた。

「そんなたいそうなお薬をお飲みにならないといけないとは、さぞ、お苦しいことでしょう」

 宝釵は横に首を振る。

「お心遣こころづかいありがとうございます。そんなに大したことはありませんの。少し息苦いきぐるしくてせきが出るくらいのものです。それも、この丸薬がんやくを飲めばいくらかましになります」

 周のおかみがさらに話そうとしたとき、

「誰かへやにいるの?」

 と王夫人の声が聞こえた。

「わたくしでございます」

 周のおかみはあわててこたえると、王夫人はにこやかに笑って言った。

「あら、あなただったの。ずいぶんっていたんじゃない? あらかたお話はんだから、何かあるならいらっしゃい」

 周のおかみは宝釵に軽くれいをし、王夫人へ劉ばあさんのけん一部始終いちぶしじゅうを伝えた。

 周のおかみは何か用を言いつけられるかもしれないと思い、そのまま王夫人と薛のおばさまが話している横でひかえていた。だが、王夫人から何の言いつけもないため、退出たいしゅつしようとしたところ、薛のおばさまが言った。

「ちょっと待って。私のお使いをたのまれてちょうだい」


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