表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅楼夢  作者: 翡翠
第六回 賈宝玉 初めて雲雨(うんう)の情(じょう)を試(こころ)み、 劉姥姥(りゅうばあさん) 一(ひと)たび栄国府へ進む
79/273

第六話 14

 朝の光がまぶしすぎるほどに明り取りの窓からそそぎこみ、へや全体を照らしている。南の窓の下にはこうがあり、真紅しんく縞模様しまもようじゅうたんかれていた。

東側の板壁いたかべには鎖模様くさりもようの背もたれと、引枕ひきまくらかれており、金糸きんしのきらめく大きな坐褥ざぶとんき、そのかたわらにはぎん唾壺つばつぼが置かれている。

りゅうばあさんはそのしつらえの豪奢ごうしゃさに息を呑まずにはいられなかったが、一とおり見終みおわってしまうと、奥にこしかけている貴人きじんをみとめた。

まだ遠目とおめだったため、その容貌ようぼうははっきりと分からなかった。だが、そのかぶりおおっているかぶものに目がとまり、思わずこう言ってしまった。

「あのお方は役者やくしゃなのかえ」

 周のおかみがあわてて劉ばあさんの口をふさぐ。貴人きじん――、王熙鳳は紫貂くろてんの皮で作った頭巾ずきんをかぶっていた。

頭頂部とうちょうぶ存在そんざいしないこの頭巾ずきん昭君套しょうくんとうと呼ばれる。西漢せいかん悲劇ひげき官女かんじょ王昭君おうしょうくん、その王昭君が大衆演劇たいしゅうえんげきの劇中でかぶるのがその頭巾ずきんで、劉ばあさんは“本物”を見るのは初めてだった。

 少しずつ熙鳳きほうと劉ばあさんの距離きょりちぢまっていく。

熙鳳は珠玉しゅぎょくつらねた首飾くびかざりをかけ、花模様はなもようあおの上に、石青あいの刺繍の入った灰鼠はいねず色の被風ひふう羽織はおり、真紅しんく洋縮緬ようちりめんスカートからは銀鼠ぎんねず裏地うらじがのぞいていた。

そのはだつややかに化粧けわいがほどこされ、こう端座たんざしていた。

 周のおかみは小声で劉ばあさんへ、「姑奶奶わかおくさまにご挨拶あいさつを」と耳打みみうちした。

 だが、劉ばあさんはあまりの熙鳳の美しさに見惚みほれてしまっていた。それだけではない。その内側うちがわからただよってくる気品きひんも五年前の比ではない。ちた口をあんぐりと開けたままかたまるよりほかなかった

熙鳳はそのすらりとした指でどう火箸ひばしもてあそびながら手炉てあぶりはいをかきぜている。

こうの端には平児がひかえ、小さな漆塗うるしぬりの茶托ちゃたくに小さなふたつきの茶碗ちゃわんせてささげるようにもたげていた。

熙鳳は茶を受け取ることも、顔を上げることもせず、そのままはいをかき混ぜながらゆっくりとこう言った

「どうしてまだ中へとおさないの?」

 そう言いながら、気だるげに身を起こして茶を取ろうとしたところに、周のおかみとみすぼらしい格好かっこうの二人の客が目に入り、あわてて立ち上がった。

「どうしてもっと早く言ってくださらないの」

 熙鳳は周のおかみをさらりとたしなめ、劉ばあさんに微笑ほほえみかけた。

「よくぞいらっしゃいました」

 劉ばあさんはこのへやに入るまで熙鳳をただの小娘こむすめだと思っていたこともわすれ、なめられてはいけないと思っていたこともわすれ、じゅうたんの毛がちそうになるほど平伏へいふくし、ひたいをこすりつけ、

姑奶奶わかおくさまにお、おかれましては、ご、ご機嫌うるわしく」

 といきえになりながら言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ