第六回 12
「劉のおばあさま、お座りになってください」
平児は炕を手でさし、劉ばあさんに座るようにすすめた。
劉ばあさんは何度かそれを辞退したが、ついに断り切れず、炕へ腰かけ、板児がその横にちょこりんと座った。
丫鬟がお茶を二杯持ってき、うやうやしく劉ばあさんと板児に差し出した。お茶の入っている茶碗も、明らかに形も表に塗られている釉薬もひどく立派なもので、自家にあるような口の欠けた薄汚れた茶碗とはまったく違っていた。震える手でそれを優しく抱えるように持ち、一口啜る。鼻の内を突き抜けるようなすがすがしさが走った。
劉ばあさんはゆっくりとそれを味わう。気がつけば平児と周のおかみも炕の脇に腰かけ、お茶を飲みながら談笑している。
男の子の性か、板児が茶碗を弄び始めたのを叱ろうと手を伸ばしかけた途端、コットン、コットンという篩で粉をふるうときのような音がどこかでなっているのに気づいた。
あたりをきょろきょろと見回すと、室の柱に箱が一つ掛かっていて、そこからぶら下がる分銅のようなものがゆらゆら揺れている。
劉ばあさんが、「これは何の玩具だろう? それとも何かの道具だろうか?」と考えていると、ボーンと鐘を鳴らしたような音が響いた。劉ばあさんは思わず、
「ヒイッ」
と悲鳴を上げ、炕の上で小さく跳びあがってしまう。
その音は続けざまに八、九回響いた。その箱が何なのか教えてもらおうと考えていると、小丫鬟がそろって駆け込んできて言った。
「奶奶が降りてこられました」
平児と周のおかみは急いで身を起こし、
「おばあさんはそこに座っていてくださいな。ちょうどよい頃合いでお呼びします」
と言い、熙鳳を迎えに出て行った。
劉ばあさんはいっそう身を強張らせ、耳をそばだてながら待ち続けた。
そうしているうち、遠くから笑い声が聞こえ、十数人の婦人たちが衣擦れの音も賑やかに、中央の室へ、西の室へと向かっていく。
劉ばあさんはそれをじっと目で追いながら、板児を懐に抱えていた。
やがて、三人ほどの婦人たちが真紅の漆塗りの箱を持ってきて、じっと待っているのが見えた。すると、また向こうの方から「食事のご用意を!」という声が聞こえ、人々は水が引くように引きあげてゆき、料理の配膳をする何人かだけが残った。それからしばらくのあいだ張り詰めた静寂だけが残った。




