第六回 10
周のおかみは平児の居場所を聞くと、少し足を硬直させながら、自分より二回りも若い通房丫頭のもとへ向かった。
平児は熙宝の筆頭丫鬟である。幼いころから熙宝とともに長じ、まるで分身のように過ごしてきた。容姿も熙鳳を一回り小さくしたようで、切れ長の目や花が開くような口元までそっくりだった。才智も熙宝に引けを取らない。
熙鳳は彼女を通房丫頭の地位につけた。本来、通房丫頭は主人の側室も兼ねることが多い。だが、平児は熙宝の夫である賈璉と決して衾を同じくしようとはしった。
初め、賈璉は平児に食指を動かしていた。熙鳳に劣らぬ美貌の持ち主に好色な賈璉が興味を持たぬはずがない。だが、平児は彼の誘いに手を変え、品を変え拒み続けた。
その報告を他の丫鬟から聞いた熙鳳はほくそ笑んでいたという。熙鳳とすれば夏璉が平児に手を出そうとするのも、それを平児が拒むのも織り込み済みだった。
熙鳳はおよそ忠誠心というものを信じていない。法も破る者がいるから法だと思っている。
必ず人を服従させる手段があるとすれば、その人自身にその人を見張らせ、律させ、ときには罰させることであると熙宝は考えていた。そのうえで熙宝を裏切るのならそれ相応の手段を講じるだけだ。
もっともそう簡単に平児が裏切るとは熙鳳も思っていない。だが、簡単に揺らぐのもまた人間である。だからこそもっとも信頼する平児をあえてこの役に任じた。いつでも妾となれる通房丫頭に。平児なら分るはずだと思っていた。妾になる、裏切るなど夢にも思うなよという隠語が込められていることに。
平児もその点はもちろん分かっている。彼女は熙鳳に心酔していた。丫鬟としてこの上ない地位に就けてくれた熙鳳に報いるために何でもするつもりだった。ときとして非常な手段も厭わぬほどに。
周のおかみがたずねてきたとき、平児は生来の鋭さでおかみのあせりを感じた。おかみは言った。
「「長安の王家」の名代が遠路はるばる栄国府まで来られています。以前、王夫人はいつもお会いになっていたようですから、今回もぜひお会いいただかなくてはなりません。こちらにお連れしておりますが、奶奶はご不在のご様子。あとで私が詳しく訳をお話しいたしますからとりあえずお通ししてください」
どこかに嘘がある、と平児は思う。しばらく彼女は考えたあげく、周のおかみをこれ以上追及しないことにして、いったんその「長安の王家」を迎えることにした。通したのちに奶奶へ判断を委ねればよい。
平児は言った。
「ではまず、こちらでお待ちいただきましょう」




