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紅楼夢  作者: 翡翠
第六回 賈宝玉 初めて雲雨(うんう)の情(じょう)を試(こころ)み、 劉姥姥(りゅうばあさん) 一(ひと)たび栄国府へ進む
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第六回 8

 五年前――、「長安の王家」がまだ持ちこたえていたころだ。

 「長安の王家」は「金陵の王家」にねたみにも似た感情かんじょういだいていて、あからさまにこちらからけていた。

 おろかなことだ、と完全かんぜんな身内でない劉ばあさんは思っていたのだが、「長安の王家」とて何も考えていなかったわけではない。

 おりれて、劉ばあさんを「長安の王家」の名代みょうだいとして、栄国府へっていたのである。だからこそ、周瑞のおかみとも親密しんみつのままをたもてたし、こうして彼女と話もできている。

 そのころ遠巻とおまきに見た王氏、賈政の妻である王夫人は温和おんわで人当たりのよい感じだった。だが、その奶奶わかおくさまとやらはどうだろう。劉ばあさんは急に不安を覚えた。

「おばあさん、奶奶わかおくさまってのが誰か分かる?」

 周のおかみがいたずらっぽく聞く。

「分かるわけないだろう」

 しまった、と思う。不安ふあん動揺どうようといらだちが一挙いっきょせて、ついぶっきらぼうな言い方になってしまった。

 だが、周のおかみはまったく意に介する様子がない。それどころか得意げにこう続ける。

姑太太おくさま姪御めいごさま」

「……あの、鳳哥ほうちゃんか」

「しっ!」

 周のおかみが劉ばあさんの口を押さえる。

「今はもうあのころの姑娘おじょうさんじゃないんですよ」

「そりゃ、大した方におなりで……」

 切れ長の目で頭も切れそうな子だった。だが、栄国府の裁量さいりょうまで任せられるだけのうつわかどうか。

「それで姑太太おくさまには……」

姑太太おくさまは今ほとんど来客らいきゃくにはお目にかからないの。応対おうたいされるのは奶奶わかおくさま。今日は姑太太おくさまにはお目にかかれなくても鳳姑娘おじょうさまにお会いできればお越しになった甲斐があるというものです」

 劉ばあさんは両手をしっかりとくっつけるように手を合わせた。

「南無阿弥陀仏! これもすべて嫂子ねえさんのおかげです」

 すると周のおかみは笑いながらこう言った。

「まあ、おばあさん。何をおっしゃいますか。ことわざにも言うでしょう。「人にほどこすものはほどこされる」と。私はたった一言お伝えするだけ。別にたいしたことじゃありませんよ」

 そう言うと、小丫頭しょうじじょを呼び寄せ、

老太太おおおくさまへやで食事の準備ができたかどうかこっそり聞いておいで」

 と命じた。

 それからしばらくの間、劉ばあさんと周のおかみは世間話せけんばなしきょうじた。

鳳姑娘おじょうさまといえばまだ十八、十九のはずでしょうに。それなのにこれだけ家のことを取り仕切るなんて大したもんだねぇ」

 劉ばあさんがしみじみと言うと、周のおかみは嘆息たんそくした。

「いや、おばあさん。とても一言じゃ語りつくせませんよ。あの姑娘おじょうさんときたら年はお若いですが、行いは誰よりもしっかりしていらっしゃいます。今ではまるで花のように美しくおなりになって、万の心眼しんがんを持つかのように気を配られ、そのべんの立つことは、どれだけしゃべりのうまい男が十人束じゅうにんたばになってかかってもかないませんよ。ただ、一つ……」

 周のおかみは口をにごす。

「ただ一つ?」

 劉ばあさんは相手の言葉を繰り返した。周のおかみは観念かんねんしたごとく誰にも聞こえない小さな声で言った。

下人しようにんにもう少しやさしくしていただけるといいんだけどね」

 そんなおり小丫頭しょうじじょが戻ってきて言った。

老太太おおおくさまのお食事しょくじのご準備が整いました。二の奶奶わかおくさま今太太おくさまおへやにいらっしゃいます」


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