第六回 7
劉ばあさんは周のおかみと向き合いながら、わずかの間にこれまでのことを思い出していた。そしてもう一度覚悟を決める。
単純なことだ。狗児はあてにならない。私がここで一たび何かを違えれば娘も孫も路頭に迷う羽目になる。
劉ばあさんはもう一度、周のおかみをなめるように眺めた。惑っている、と判断した。
迷っているのではない。惑っている。こういう相手には一言念を押しておくにかぎる。背中を押してやるのだ。そう。一言でいい。
「どうだろう。二の姑太太にはお会いできそうかね」
それを聞いたとたん、周のおかみは強張った顔を崩し笑顔になった。
「おばあさん、安心してちょうだい。こうして遠路はるばる誠心誠意たずねてくださったのだもの。あの慈悲深い仏さまのような姑太太にお会いできないわけがないでしょう?」
周のおかみはそう言ったが、劉ばあさんはそこに煮え切らないものを感じた。そして考えるこのおかみは、私のような薄汚い婆さんを王夫人に取り次ぐのをためらっているのだ。
だが、無下には断れない。なぜか。
一つは夫である周瑞が田地購入の折にもめた際、狗児の父の田成が世話をしてやったこと、つまり恩があるからだ。そして何よりおかみは見栄を張りたいのだろう。「私のおかげで太太に会えたのだよ」という見栄を。
「周の姐姐のお助けをどうにか借りれないかねえ」
劉ばあさんはあえて下手に出た。思ったとおり、相手は緩んだ頬をさらにゆるめて言った。
「本来お取次ぎをするのは私の役目ではないの。私たちはそれぞれに仕事を持っていて、たとえばうちの男たちは春と秋の地租のことだけ気にして、あとは暇なときに小爺たちを連れて出かけるくらいのもので、私は太太や奶奶さまが外に出かけるときに付き添うだけ」周のおかみはここで一息つき、「あなたが太太のご親戚で、私のことを頼ってくれたから、決まりを破って太太に引き合わせてあげる」
ともったいぶりながら言った。
劉ばあさんは思わず笑いそうになってしまう。あからさまに恩を着せようとしていた。何かしてもらいたいわけじゃない。ただ恩を感じさせたいのだ。
「ありがとう。周の姐姐」
そう微笑みを返した。憐れさを感じさせるほどの微笑みを。笑うだけなら免費である。
「ただ一つだけ」
周のおかみが意味ありげに言った。
「これだけは五年前とは違っているの。今栄国府を取り仕切っているのは璉さまの奶奶なのよ」




