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紅楼夢  作者: 翡翠
第六回 賈宝玉 初めて雲雨(うんう)の情(じょう)を試(こころ)み、 劉姥姥(りゅうばあさん) 一(ひと)たび栄国府へ進む
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第六回 5


「覚悟だと? あんたなんてこうの上に座って無駄口むだぐちたたくだけじゃないか。まさか俺に強盗をしろって言うんじゃないだろうな?」

 狗児の不機嫌がだんだんと増していく。

「そんなバカなこと考えるもんかい。力のないもんは頭だよ。頭。頭を働かすんだ」

 狗児は大げさにため息をついてみせた。

「頭だと? 考え一つでそんな簡単に金が手に入るなら苦労はしねえや。少なくとも俺には何も考えつかねえ。俺らには税金を取り立てる親戚しんせきもいないし、役人の友達もいないんだぜ」

だまりな。あんたの考えなんて誰も期待してやしないよ」

 何かが吹っ切れたのか、劉ばあさんのもの言いがどんどんあけすけになる。それにしたがって娘であり、妻である劉氏のうろたえ具合にも拍車はくしゃがかかっていくのだった。

「「ことはかるは人にり、ことを成すは天に在り」だ。私たちがきちんと考えれば、菩薩ぼさつさまだってきっと味方みかたしてくれる。私は姑爺むこどのが愚痴ばかりこぼし、酒を食らっているときからずっと考えていたのさ。「金陵の王家」に今こそたよるべきだとね」

 劉ばあさんがこんこんと述べるのに、狗児はあきれたように笑う。

「「金陵の王家」だと? 同じ王でも俺らとは格が全然違うぜ。あっちはお大仁だいじん、こっちは貧乏人びんぼうにん。それに伝手つてゆかりもないのにどうやって頼るっていうんだい?」

姑爺むこどのの家と「金陵の王家」は親戚しんせきなんだよ」

 劉ばあさんがぽつりと言った。

「何だと?」

 狗児が片膝かたひざを立てて立ち上がりかけた。

 それから劉ばあさんは先に述べたような昔話を始めた。狗児の祖父と「金陵の王家」の関係、お情けで親族の列に加えてもらったこと。そして――。

「二十年前まで金陵の人々はよくあんた方の面倒をみてくれていた。だが、あんたの親父さんは片意地かたいじって近づこうとせず、そのおかげで縁遠えんどおくなってしまった。そのためにかんれず、こんな古都ことのそれも外れのぼろに落ち着いてしまったんだよ」

 狗児は父親を悪く言われた怒りと、我がいえが自ら幸運こううんを手からこぼしてしまったことを知ったことによる動揺とがないまぜになって、足をずっとふるわせていた。

「だが、まだのぞみはある」

 劉ばあさんはしずかに言った。

「私はこのと王家におうかがいにいったことがあった。あんた覚えているかね?」

 劉氏はあいまいに笑ってみせる。

「あんたが小さなときのことだったからね。覚えていないのも無理はない。かのいえの二番目の小姐おじょうさまは、実にきっぱりしていて、人に親切しんせつな方だった。威張いばるようなこともしなかったしね。今じゃ賈家の二の老爺だんなさまの奥方おくがただ」

 賈家の……、狗児はわずかな知識ちしきを頼りに思い出す。その名は賈政かせい、そのさいひいでており、今は員外郎いんがいろうの位にまでのぼっているという。

 劉ばあさんは誰にも分からないようにほくそ笑んだ。狗児の頬が紅潮こうちょうしている。少しは興味きょうみを持ったらしい。だが、これでは足りない。もっとたたみかけなければ。

なさけをうんだよ。聞くところによれば二の小姐おじょうさま年齢ねんれいを重ねるにつれ、貧しいものや年寄りに情け深くなり、僧侶そうりょにお布施ふせもよくなさるそうだ。王の家はたしかに官位がたかくおなりになっただろうが、あの二の姑太太おくさまはまだ私たちを覚えてくれているかもしれない。ちょっとあちらに顔を出してみようよ。もしかしたら、昔のよしみを思い出してくれるかもしれない。少しでも情けをかけてくれたら、あちらのほんの一本の産毛うぶげ程度ていどのおめぐみでも、私らの腰回こしまわりよりずっと太いんだからね」


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