第六回 4
話は前年の冬にさかのぼる。
もともと、この「王家」の先祖はしがない京官で、遠い昔に熙鳳の祖父、すなわち王夫人の父と面識があった。そこで王家の権勢にすがろうとして、宗族に名を連ねてもらい、「甥」となることができた。
そのとき、王家の長男、すなわち熙鳳の父と王夫人だけが京に随いてきており、この遠族の存在を知っていたが、それ以外の栄国府の人々は彼らのことを知らなかった。いわゆる急ごしらえの親戚といったところで、ありていに言えば親戚とは名ばかりのものだった。だが、その名ばかりの親戚であっても、それを後ろ盾として一代限りの京官の職を守り抜くことはできた。
だが、その息子の王成に代が及ぶや、急坂を転がるように家の財政が傾いていった。そのため一家は長安城内から城外のさらに外れへと移り住むはめになる。
その王成も最近亡くなり、劉ばあさんの娘婿、狗児に代替わりした。息子の板児、娘の青児と二児を抱えているため、狗児が田畑を耕し、狗児の妻の劉氏は育児や家事にかかりっきりという具合で板児と青児二人の兄妹の面倒を見るものがいなかった。
そのため、狗児は姑の劉ばあさんを呼び寄せ、二人の孫をみてもらうようお願いした。劉ばあさんはわずか二畝の瘦せ地で喘ぎつつ、その日暮らしの生活をしていたから、喜び勇んでこの娘夫婦の提案に飛びついた。
ところがこの婿と姑はどちらも気が強いどうしゆえ、毎日のようにいがみ合い、あるいは陰口をたたき、間に挟まれた劉氏は途方に暮れることになるのだった。
ことにその年は秋が過ぎ、寒さが厳しくなろうとしているのに、暖を取る薪も、家族四人で食べていくための日銭にも、事足りないありさまだった。
その日、狗児はまだ日が昇っているというのに酒をあおっている。
「あなた、そろそろお酒はおやめになっては……」
劉氏がそうやんわりとなだめる。
「うるさい!」
狗児は姑の見ているまえで娘の劉氏に盃を投げる。
狗児のいらだちは日に日に募っていた。どうにもならない不安がいっそう彼をそうさせるのだろう。いつも狗児にあけすけなもの言いをする劉ばあさんもここ数日は口を出すのを控え、じっと沈黙していたのだった。
彼女は田舎の生まれからか、世故に長けていて、言うべきときと、言わざるべきときをきちんと心得ていた。狗児の我慢が限界に達するまでじっと待ち続けていたのである。
そしてついにその日、時は満ちた、と思った。ゆっくりと重い口を開く。
「婿爺」
「なんだよ、ばばあ」
狗児の投げやりな口調にもつとめて落ち着きながら返す。
「まぁ、お聞きよ。子どもたちが怯えているじゃないか」
二人の孫の名前を出すと、狗児の怒りが少し静まったようだった。
「私があれこれ口を出すからと言って怒っちゃいけない。この娘も知っているだろうが、うちの村の連中なんて、自分の椀に見合った分だけ、飯を食らう。大きな茶碗を持っている家はそれだけ贅沢な暮らしができるし、小さな茶碗を持っている家はつつましく暮らす。あんたは子どものころ、親御さんの福にあずかったおかげで豊かな暮らしができたんだよ。
だが、いまのあんたはどうだい。金を手にすると舞い上がって後先考えず、金がないときは癇癪を起こすのかい。それでも立派な男と言えるかね」
「説教はたくさんだ。どうせ説教するなら金を手に入れる方法を教えてほしいね」
「あるよ」
劉ばあさんは炕の上で座りなおしながら言った。
「姑爺に覚悟があるのなら」




