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紅楼夢  作者: 翡翠
第六回 賈宝玉 初めて雲雨(うんう)の情(じょう)を試(こころ)み、 劉姥姥(りゅうばあさん) 一(ひと)たび栄国府へ進む
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第六回 2

 宝玉たちが風月いろこいのことにきょうじていたころ、ある一家が栄国府の門の前に立っていた。長旅ながたびてきたため、風塵ふうじんにさらされたその顔は、いずれも薄黒うすぐろよごれ、手をつないだ男の子、女の子二人のきょうだいは、いずれもせこけている。

獅子しし石像せきぞうの置かれた門の前ではなみのように人が往来おうらいし、一家の大黒柱だいこくばしらである男は手を挙げては下ろし、手を挙げては下ろし、おろおろするばかりだった。

姑爺むこどの! そんなていたらくでどうするのさ!」

 老婆ろうばくようにさけんだ。

ばあさん、やっぱり無理むりだよ。俺たちみたいに芥子粒けしつぶのような人間は、栄国府のお偉方おえらがたには近づくことができないんだ」

 老婆ろうばはげしくくびよこに振る。

「あーっ、もう。情けないね。板児はんじ!」

 老婆ろうばは男の子の方を呼び、スカートちりはらい、板児の顔をいてやってから二人で脇門わきもんへ向かった。

 脇門わきもんでは正門にくら人通ひとどおりが少なく、その一隅いちぐういかつい筋骨隆きんこつりゅう々とした男たちが、さいころがしていた。

「お兄さん方、ご機嫌よう」

 ばあさんは愛想あいそうよく挨拶あいさつしたが、けに夢中むちゅうになっている男たちの耳にはとどかない。

 そこで老婆は板児の背中をぽんと叩いた。

「おにいさんがた、ごきげんよう」

 たどたどしく板児が言うのに、ようやく一人の男がまゆをあげた。

坊主ぼうず、どこから来た?」

 すかさず老婆が口をはさむ。

「私たち一家は長安ちょうあんから参ったのですがね。太太おくさま陪房おつきの周の大爺だんな御用ごようがあるんでございます」

 老婆はつとめてこしひくくし、つらつらと述べたが、男たちは賽を転がすばかりで、老婆を見向みむきもしなかった。

 それでもしつこくたずつづけると、

「あそこにへいが見えるだろ? あのあたりで待ってな。いずれ誰か家人けらいが出てくるから」

 男たちはみな、にやついている。老婆はすぐにからかわれていることをさとった。

「私たちは太太おくさま遠縁とおえんの者なんでございますが」

 これは少なからずき目があったらしい。一人の男が吐き捨てるように言った。

「周の老爺だんななら南に行ったよ。周の家は裏手だ。奶奶おかみさんならいるはずだよ。もしさがすんだったら裏門に回るんだな」

 老婆はそれを聞くと礼を言って、板児とともに裏門へ回った。そこには行商ぎょうしょうの者たちが身を寄せ合うようにして休んでいたり、食べ物を売るいちや、おもちゃを売るいちのきつらねていて、二三十人の子どもたちがはしゃぎながら走り回っていた。


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