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紅楼夢  作者: 翡翠
第五回 賈宝玉 太虚境(たいきょきょう)に神遊(しんゆう)し 警幻仙(けいげんせん)紅楼夢(こうろうむ)を曲演(きょくえん)す
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第五回 16

 宝玉はこれを聞いてぎょっとし、慌てて答えた。

「仙姑さま、それはお見誤みあやまりです。私は書を読むことも億劫おっくうになりがちで、日々両親ひびりょうしんからおしかりを受けております。どうして「いん」の字までおか真似まねをいたしましょう。ましてや私はまだ年若としわかく、「淫」とはいかなることかもぞんじません」

 警幻仙姑は言った。

「それは違うわ。「淫」のことわりは一つですが、そのこころはさまざまです。に言う「いん」を好む者とは、顔かたちにかれ、歌やまいふけり、手を取りたわむれることかぎりなく、見境みさかいなしに雲雨セックスにおよび、天下てんか美女びじょたちを一時いっとき快楽かいらく用立ようだてられないのを恨めしく思い、かわほねだけで快楽かいらくひたろうとする愚物ぐぶつどものことです。

 ですが、あなたは違います。あなたは生まれつき特別とくべつな「痴情ちじょう」がそなわっていて、私たちはそれを「意淫いいん」と呼んでいます。この「意淫いいん」の二字は心でかんじ取るもので、口にして伝えられるものではありません。精神で通じるもので、言葉では語れないものなのです。

 あなただけが今この二字を会得えとくしています。閨閣けいかくうち女人にょにんまじわるときには良き友となれますが、紅塵せけんに放りこまれれば、常識はずれの愚か者とあざけられ、冷たい目で見られるでしょう。

 すでにあなたの先祖であるねいえい二公にこうにお会いして、心のうちを打ち明けていただき、私にたくされました。それゆえに、私はあなたが私の閨閣けいかくにのみ光を当て、紅塵せけんから見捨てられることを忍びなく思います。

 そのため私はあなたをおまねきし、美酒びしゅをもって酔わせ、仙茗せんめいをもってひたし、妙曲みょうきょくをもってけいしました。さらに……」

 と言いながら、先ほどの少女しょうじょ手招てまねいた。

「我がいもうとの一人、乳名おさなな兼美けんび表字ひょうじ可卿かけいという者を許嫁きょかしましょう。

 折しも今夕こんせき良時りょうじです。すぐにでも婚姻こんいんを結びましょう。

あなたにこの太虚幻境の幽玄ゆうげんきわみを味わってもらい、紅塵せけんけいなどものの数にも入らないことをってもらいたいのです。

これからは万事ばんじにおいてふかく思いをいたし、あらためて前情ぜんじょうを悟りなおし、孔孟こうもうの教えに注意ちゅういはらい、経世済民けいせいさいみんの道に身をゆだねなさい」


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