第五回 15
歌い終わると、仙姑はさらに副曲を歌わせようとした。
だが、警幻仙姑は宝玉が音曲ばかりを聞き、詞の内容を理解しようとせず、面白くなさそうにしているのを見て、嘆きながら言った。
「愚かな子、ここまでしてまだ悟らないのね」
宝玉は舞姫たちを押しとどめ、
「酔ったように頭が朦朧としてきました。少し休ませてください」
と伝えた。警幻仙姑はすぐに舞姫に残りをとりやめるように命じ、宝玉を縫い取りを凝らした閣に設えられた、香り高き閨まで連れていく。
そこには薄絹の天蓋のに覆われた金絲紫檀の寝台が据えられ、繍羅の幔幕が下がり、足元には雲肩紋錦の敷物が広がっていた。その鋪陳はいずれも紅塵では見たことの無いほどに豪奢なものだった。
宝玉はしばらくの間、その景に見とれていたが、柱の陰に自分と同じくらいの齢の少女がいることに気づいた。
喜び勇んで一言声をかけようと近づいていく。
だが、その少女が振り返ったとたん、宝玉は体中の血の気が引いたかのように青ざめ、たじろいだ。
「宝姐姐、黛ちゃん」
宝玉は呆けたようにつぶやいた。
その少女の鮮やかで艶めかしいことは宝釵に、靡くように撓やかなことは黛玉にそっくりだった。
宝玉はおそるおそる後ろの仙姑を見やった。
「紅塵の富貴の家では、緑窓の風月、縫閣の霞烟といったものは紈袴の徒や流蕩の女に辱められています」
緑窓の風月、縫閣の霞烟、と宝玉は復唱した。
「閨のことよ」
と癡夢仙姑がいかにも嫌そうに宝玉へささやいた。相手の態度で「閨」が単なる室を意味しているのではないことを悟り、うつむきながら赤面する。
仙姑の口調が荒くなる。
「さらに憎たらしいのは古より軽薄な男子は「好色なれど淫ならず」とのたまい、「情ありて淫ならず」などと装うことです。すべては醜さを飾りたて、過ちを覆い隠そうとする詭弁に他なりません。色を好むというのはつまり淫です。情を知るというのはなおのこと淫なのです。
そのため巫山の交わり、雲雨の歓びといった男女の交わりも、色に悦び、情に恋することによって生まれます。爾を私が愛するのは、爾が古今無双の淫人だからです」




