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紅楼夢  作者: 翡翠
第五回 賈宝玉 太虚境(たいきょきょう)に神遊(しんゆう)し 警幻仙(けいげんせん)紅楼夢(こうろうむ)を曲演(きょくえん)す
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第五回 14

 宝玉はこの一節いっせつを聞き終えたが、その散漫さんまんで、現実離げんじつばなれしており、その詞の良いところを探すことができなかった。だが、その旋律せんりつひびきにはどこか哀切あいせつさがあり、こころうばわれ、たましいまで酔いしれるようだった。

そこで、由来や意味などを気にすることはせず、ただつかの間の気晴きばらしとなっただけだった。


恨無常こんむじょう


栄華えいが喜びまさに好しきに、

無常むじょうまたいたるをうら

まなこ睜睜しょうしょうとして、万事ばんじをことごとくなげう

蕩悠悠とうゆうゆうとして、芳魂ほうこん銷耗しょうもう

故郷こきょうを望めど、路遠みちとお山高やまたか

ゆえに爹娘ちちははに向かって夢裡むりあいたず

の命はすでに黄泉こうせんに入りぬ。

天倫てんりんよ、すみやかに退しりぞき、身をきたまえ!」


分肉骨ぶんにくこつ


一帆いっぱん風雨の路三千さんぜん

骨肉こつにく家園かえんとを共にしてげ捨つ。

おそる、きて残年ざんねんそこなわんことを。

爹娘ていじょうげて、やすんじて懸念けんねんするなかれ。

自古じこより窮通きゅうつう皆定さだまり有り。

離合りごうに縁無からんや。

今より分かれて二地に在り、

おのおのみずか平安へいあんたもつべし。

やつりぬ、なか牽連けんれんすべからず。


楽中悲らくちゅうひ


襁褓きょうほうの中にて、父母ふぼふたつともくなるをなげく。

たとい綺羅きらたるむらようとも、たれ嬌養きょうようを知る?

幸いにしてしょうまれながら英豪えいごうにして、広大こうだいかつ寛宏量かんこうりょう

未だかつて児女じじょ私情しじょうを心にめぐらせず、

まことに霽月せいげつの如く、光風こうふう玉堂ぎょくどう耀かがやく。

才貌さいぼうある仙郎せんろうえてあわされ、

地久天長ちきゅうてんちょうて、

幼年ようねんの時の坎坷かんかなる形状けいじょうりてなぞらう。

ついくも高唐こうとうみずれて湘江しょうこう

これ塵寰じんかんにおける消長しょうちょうすうに当たりて、

なんみだりに悲しむべけんや?


世難容せいなんよう


氣質きしつらんの如く美しく、才華さいかせんに比してかおる。

天生成てんせいして孤癖こへきなり、人皆罕まれなり。

なんじ言う、「肉をみ、腥膻せいぜんくらい、綺羅きらぞくいとう」と。

かえって知らず、あまりに高くして人愈いよいよねたみ、きよすぎて世にしたがわざるを。

嘆くべし、この青燈せいとう古殿こでんの人老いまさにせんとす。

ひと紅粉朱楼こうふんしゅろう春色しゅんしょくいてえたり。

到頭とうとうに至りて、依旧いきゅうとして風塵ふうじん骯髒おごそかにして心願しんがんたがう。

く似たり、無瑕むかなる白玉はくぎょくが泥にちたるがごとく。

また何ぞ王孫公子おうそんこうしもちいて無縁むえんなげかんや


喜冤家きえんか


中山のろう、無情のけもの

まったくおもわず、当日とうじつ根由こんゆうを。

ただ一味いちみに、驕奢淫蕩きょうしゃいんとうし、歓媾かんこうむさぼる。

るに、侯門こうもん艶質えんしつ蒲柳ほりゅうおなじうし、

作践さくせんす、公府こうふ千金せんきん下流げりゅうせり。

芳魂艶魄ほうこんえんはくたんず、一載いっさい蕩悠悠とうゆうゆうたるを!


虚花悟きょかご


その三春さんしゅん看破かんぱすれば、

桃紅とうこう柳緑りゅうりょくちて如何いかん

この韶華しょうか打滅だめつして、

清淡せいたん天和てんわもとむ。

何をか言わん、天上てんじょう夭桃ようとうさかんなり、

雲中うんちゅう杏蕊きょうずい多しと?

到頭来とうとうらいたれか秋をえしを見たるや?

ただ見よ、白楊はくよう村裡そんり人嗚咽おえつし、

青楓せいふう林下りんか鬼吟哦ぎんがす。

さらにねて、連天れんてん衰草すいそう墳墓ふんぼさえぎる。

これはすなわち、きのうは貧しみいまは富む人の労碌ろうろく

春に栄え秋に謝する花の折磨せつななり。

かくのごとき生関死劫せいかんしごう、誰かのがれんや?

聞くならく、西方さいほう宝樹ほうじゅを「婆娑ばしゃ」とび、

その上に長生ちょうせいくだものむすぶと。


聡明累そうめいるい


機関きかんはかくしてはなは聡明そうめいなるも、

かえって卿卿けいけい性命せいめいはかえる!

生前せいぜんにはこころすでにくだけ、

死後しごにはせい空靈くうれいとなる。

いえみ、ひとやすしといえども、

ついにはいえほろび、ひとっておのおの奔騰ほんとうす。

むだついやす、こころ懸懸けんけんたる半世はんせこころ

たり、蕩悠悠とうゆうゆうたる三更さんこうゆめ

忽喇喇こつらら大厦たいかかたぶくがごとく、

昏惨惨こんさんさんともしびまさきんとするが如し。

ああ!一場いっちょう歓喜かんきたちま悲辛ひしんとなる、

人世じんせいなげく、ついさだがたし!


留餘慶りゅうよけい


餘慶よけいとどむ、餘慶を留む、たちまち恩人にう。

さいわいなるかな、娘親じょうしん、娘親、陰功いんこうめること。

人生をすすむ:くるしきをすくい、きゅうしきをたすけよ。

おれおじあにのごとく、銀錢ぎんせんしみ、骨肉こつにくわするる、

そのようなむごかんなる者にならうことなかれ!

まされ、乗除加減じょうじょかげんかみ蒼穹そうきゅうあり。


晩韶華ばんしょうか


鏡裡きょうり恩情おんじょう、さらにえんや、夢裡むり功名こうみょう

かのうるわしき韶華しょうかることなんすみやかなる。

ふたたひっさぐることなかれ、繡帳しゅうちょう鴛衾えんきんを。

ただこの珠冠しゅかんいただき、鳳襖ほうこうるといえども、

なおも無常むじょう性命せいめいあらがあたわず!

たといわく、人生じんせいきたってのまずしきをくることかれと。

しかれども、なお陰騭いんしつみて児孫じそんおよぼすをもちいん。

氣昂昂きこうこうとしてこうべ簪纓しんえいいただき、

光燦燦こうさんさんとしてむね金印きんいんけ、

威赫赫いかくかくとして爵祿しゃくろくたかのぼるといえども、

昏慘慘こんさんさんたる黄泉こうせんみちちかづく。

う、いにしえより将相しょうしょうそんするや?

ただ虚名きょめいのみあって、後人こうじん欽敬きんけいくるのみ!


好事終こうじしゅう


畫梁がりょうはるきて香塵こうじんつ。

風情ふうじょうほしいままにし、月貌げつぼうる、

これすなわち、敗家はいか根本こんぽんなり。


箕裘ききゅう頽墮たいだみなけいより起こり、

家事かじ消亡しょうぼうは、まずねいとがむ。

宿孽しゅくねつすべじょうる!


飛鳥各投林ひちょうかくとうりん


官にくものは、家業かぎょう凋零ちょうれい

富貴なるものは、金銀きんぎん

恩あるものは、死中しちゅうより逃生とうせい

無情なるものは、報応ほうおう明白あきらかなり

命をくものは、命すでにかえ

涙をくものは、涙すでにく。

冤冤えんえん相報あいむくうは、まことにかろからず、

分離ぶんり聚合しゅうごうとは、みな前定ぜんていなり。

命のみじかきをらんとほっせば、前生ぜんしょうに問え、

老いて富貴なるも、これまこと僥倖ぎょうこうなり。

看破かんぱしたる者は空門くうもんのがれ、

痴迷ちめいせる者は、むなしくいのちおくる。

きかな、しょくくしてとりは林に投ず、

ちては、ひとひら白茫茫はくぼうぼうたる大地だいち

まこと乾淨けんじょうなり!


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