第五回 12
そう言って、仙姑は宝玉とともに部屋へと入った。そこではかすかな香の香りがしたが、何を焚いているのか分からなかったので、宝玉は尋ねずにはいられなかった。仙姑は冷笑して、
「この香は俗世には無いものです。どうして爾が知ることができましょう。名山という名山をわたり歩き、そのなかでもごくごく限られたところにしかない咲き初めの花の精と霊木の油を混ぜ合わせて作ったものです。名を群芳髄と言います」
全員が席に着くと、小鬟がお茶を持ってきてくれた。宝玉は香りがよく味もすっきりとしており、他のものとはまったく違っているので、その名を尋ねた。
このお茶は放春山の遣香洞から採れるものを、仙花の花に降りた露で淹れたものです。名を「千紅一窟と言います」
と警幻仙姑は答えた。これを聞いた宝玉はうなずき、褒めたたえ、部屋を見渡すと、そこには瑤琴、宝鼎、古画、新詩とおよそ無いものはなかった。
さらに宝玉にとって嬉しいことには、窓辺に仙女たちが吐いた刺繍糸が残り、鏡台のあちこちに白粉や紅の跡が残っていることだった。
そこに掛かる対聯を見ると、
幽微靈秀の地 奈何ともす可き無きの天
見ようとしても見えない神秘的な場所、天ばかりはどうすることもできない
とある。それを見終わると宝玉は仙女の名前を尋ねた。それぞれ癡夢仙姑、鍾情大士、引愁金女、度恨菩提と言い、それぞれ道号が異なっていた。
しばらくすると、小鬟が卓と椅子を整え、酒と食べ物を用意してくれた。
宝玉はこの酒の香りのすばらしさにまた質問をしてしまう。
「このお酒は百花の蕊と万木の汁、麒麟の髄と鳳凰の乳を醸して作られています。それでこのお酒は「万艶同杯」と名付けられたのです」
と仙姑が答えると、宝玉は再び目を輝かせた。酒を飲んでいると十二人の舞姫が現れ、何の曲を演ずればよいか仙姑に尋ねた。
「新作の「紅楼夢」十二曲を演じなさい」
と仙姑が命ずると、舞姫たちはゆっくりと辞儀をし、檀板を叩き、銀の箏を奏で始めた。開闢鴻蒙……、と歌い始め、「紅楼夢」の幕があがった。




