第五回 8
春恨秋悲 皆自ら惹く
花容月貌 誰が為に妍なる
宝玉はそれを読み解きながら復唱した。
月日は過ぎ去ってゆく。恨みも悲しみもすべては己の業によるものである。花はいずれ崩れ、月はいずれ陰ってゆく。美しさとはいったい誰のものなのだろうか。
宝玉は感動を抑えきれず、その高揚した気分のまま門を入ってみると、そこには大きな戸棚が十数個あるだけで、すべてが封じられていた。その印章の上には各省の地名が書かれている。
宝玉は故郷のものしか興味がなく、他の省のことにまで目がいかなかった。辛抱強く探してみると、奥の戸棚の印章に大きく「金陵十二釵正冊」の七文字が書かれていた。宝玉は仙姑に尋ねた。
「「金陵十二釵正冊」とはどういうことですか?」
仙姑は答えた。
「爾の省のなかで最も優れた十二人の女性について書かれているから、「正冊」と言うのです」
「金陵はとても広大なところだというのに、なぜたった十二人の女性だけなのですか? 私の家だけに限ってみても何百人も女の子がいますよ」
仙姑は微笑して、
「たしかに爾の省には多く女性はいますが、その中でも特に重要な者を選りすぐって載せているのです。その下の棚に納められている者たちがそれに次ぎます。その他の凡庸な者たちには記録するための余白はございません」
それを聞いて宝玉が下の棚を見ると、「金陵十二釵副冊」と書いてあり、さらにその下を見ると、「金陵十二釵又副冊」と書かれていた。
宝玉は憑りつかれたように「又副冊」の戸棚を開け、一冊の本を取り出した。
それを開くと初めの頁には画が描かれていたが、それは人物でも山水でもなく、ただ紙一面に水墨が染みたようにして烏雲と濁霧がえがかれていただけだった。
そのあとに手書きの文字が続いており、次のように書かれていた。
霽月逢い難く
彩雲散り易し
心は天の高きに比すも
身は下賤と為る
風流霊巧 人の怨みを招く
寿夭は多く毀謗の生ずるに因り
多情の公子空しく牽念
宝玉は自分が読んだものがよく理解できなかった。
また次の頁には一本の鮮やかな花と、破れた蓆が描かれていた。続けて短い詩句が連ねられていた。
枉げて自ずから温柔和順たり
空しく云う 桂に似て蘭の如しと
羨むに堪えたり 優伶の福有る
誰か知らん 公子の縁無きを
宝玉はそれを読むと何のことか分からずますます混乱した。
そこで「又副冊」を脇に置き、「副冊」の戸棚を開け、一冊手に取り上げ開くと、表紙も画になっていた。そこには桂花が描かれており、下には泥が乾ききるほどに涸れた池があり、枯蓮が突き出すさまが描かれていた。一枚めくると、次のように書かれていた。
根は荷花と並んで一茎香ばし
平生の遭際実に傷しむに堪えたり
両地に孤木を生じてより
香魂をして故郷に返らしむるを致す




