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紅楼夢  作者: 翡翠
第五回 賈宝玉 太虚境(たいきょきょう)に神遊(しんゆう)し 警幻仙(けいげんせん)紅楼夢(こうろうむ)を曲演(きょくえん)す
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第五回 7

 これを聞いた宝玉はすぐに秦氏がどこに行ったのかなど、まったく頭から消え去ってしまい、仙姑を追ってがらんとした場所にたどり着いた。

 すると一行の目の前に「太虚幻境」と大書された石碑が現れた。両側には一幅の対聯が書かれていた。

 

 しんとなる時 しん

 無の有となるところ 有もた無


牌楼はいろうをくぐると宮門きゅうもんがあり、孽海情天げっかいじょうてんの四文字が大書たいしょされている。

罪業ざいごうは海のように深く、愛欲あいよくそらのように限りない。

 いかづちのごとく鋭い警句けいくかかげられていたのだが、宝玉の目には映らない。いや、もし仮に目にうつっていたとしても歩みを抑えきれなかっただろう。

 厚地厚天こうちこうてん なげくにえたり 古今ここんじょうは尽きず


 痴男怨女ちだんえんじょ あわれむし 風月いろこいさいつぐながた


 宝玉はその脇に書かれている対聯ついれん詩意しいを考える。

 地は厚く。天は高い。どんな嘆きにも耐えうるだろう。だが「古今の情」は尽きない。

 愛し合っていても満たされない男女は憐れなものだ。「風月の債」はあがないきれない。

「なるほどね。でも、この「古今の情」とは何だろう。「風月の債」とは何だろう。これから深く、分かりきるまでそれを理解しなくては」

 宝玉はただ純粋じゅんすいにそう考えていただけだったが、そのことが邪悪じゃあくもの膏肓こうこうに招き入れていることには気づいていなかった。

 今仙姑のあとについて二つ目の門を入り、両脇にずらりと並ぶ殿たてものにはすべてに扁額へんがくが掛けられ対聯たいれんが書かれており、一目ではとても見尽くせないほどだった。

 そのうちのいくつか、「癡情司ちじょうし」,「結怨司けつえんし」,「朝啼司ちょうていし」,「暮哭司ぼこくし」,「春感司しゅんかんし」,「秋悲司しゅうひし」と書かれているのを見るのがやっとだった。

 それらを見てしまうと、宝玉は仙姑に言った。

「仙女さま、私はあれらのをすべて見て回りたいのですが?」

 とお願いしたが、仙姑は、

「ここにおさめられているのはあまねく女性の過去から未来までの記録きろくです。あなたのような凡俗ぼんぞく見識けんしき紅塵うきよ身体からだの持ち主がそれを知ってはなりません」

 だが、そんな警告けいこくに黙ってしたがう宝玉ではない。何度も何度もお願いをすると、仙姑はあきらめたようにため息をついた。

「まったく。仕方がありませんね。ここのであればお好きにどうぞ」

 宝玉が大喜びしながらその扁額へんがくを見ると、「薄命司はくめいし」の三文字が書かれていた。


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