第五回 5
宝玉は微笑みながらうなずく。すると一人の嬤嬤が言った。
「叔父が甥の部屋でお休みになるのは、礼に反するのではないでしょうか?」
先に述べたとおり、賈蓉と宝玉は甥と叔父の関係に当たる。嬤嬤は憚った言い方をしたが、要は甥の妻である秦氏の部屋で寝ることが不適切であると言いたいのだろう。
だが、それを察した秦氏は笑いながら言った。
「それでこの方がどうにかなると思っておいでなのですか? なんでそんなにお疑いになることがありましょう。先月、私の弟がこちらに来ましたが、弟は宝二叔と同じ年、背は弟の方が高いくらいですよ」
宝玉は急に心が沸きたって言った。
「ぼくはまだその弟さんに会ったことがありません! ぼくにも会わせてよ!」
それを聞いて皆笑った。
「ここから二、三十里も離れているのにどうしてお会いできましょう。またの機会にいたしましょう」
一行は秦氏の寝室にやってきた。部屋に入るとすぐにほのかな甘い香りがただよってきた。宝玉は目が赤くなり、骨がとろけそうになるのを感じて、「なんていい香りだろう」と何度も繰り返した。
壁をうかがうと、そこには唐伯虎が描いた「海堂春睡図」が掛かっていた。両側には宋の学者、秦大虚の対聯が掛かっている。
嫩寒 春冷により夢を鎖し
芳気 人を籠む 是れ酒香
襲人は咄嗟にその詩意を解そうとした。春の寒さのために柔らかな冷たさが夢を封じこめ、芳しい香りは酒の香りのように人を籠らせる。これが寝室におかれているということは……。そこまで考えて襲人は人知れず赤面する。
慌てて調度品に目をやると、机の上には武則天が鏡室にしつらえていた宝鏡があり、その一方には趙飛燕が踊った金の盤があり、盤のなかには安禄山が投げて、楊貴妃の乳房を傷つけた木瓜が盛ってあった。奥には寿陽公主が含章殿で眠ったときの寝椅子があり、掛かっているのは同昌公主が作った連珠帳で幾重にも真珠が垂れ下がっていた。
宝玉は笑って言った。
「ここは好き。本当に好き!」
秦氏も微笑んで言った。
「私のこの部屋なら神仙でもお招きすることができると思いますよ」
秦氏は西施が洗った紗衾を自ら敷き、紅玉が抱いていた鴛鴦の枕を移した。奶母たちは宝玉を寝かしつけると一人ずつ去ってゆき、宝玉に付き添うのは襲人、媚人、晴雯、麝月の四人の丫鬟だけになった。秦氏は年若の丫鬟に猫たちが喧嘩をしないように見張るよう言いつけた。




