第四回 14
翌朝、賈璉は頭痛がひどく、家人に水差しを持ってこさせると一気に飲みほした。
賈璉は決して平凡な人間ではない。人並みの才があり、任せられれば家事を無難に切り盛りするくらいのことはできるだろう。だが、彼の妻は鳳辣子と呼ばれる辣腕、王熙鳳である。その器量の差は明らかで、そのために彼は常に劣等感を覚え、放蕩の道へと足を突っ込むこともしばしばだった。だが、せんに薛蟠のふるまいを見てしまうと、その放蕩の道ですら及ばないことを感じ、さらに落ちこんでしまったのだった。
せめて賈政がもう少し栄国府の家事に興味を持ってくれたら、と思う。賈璉の父、賈赦が当主の座を退き、一族の長である寧国府の賈珍があてにならない以上、賈政がもっと栄国府のために、賈家のために尽力するべきだ。
たしかに栄国府は広い。だからこそ目が届かないのかもしれない。また族長である賈珍に遠慮をしているのかもしれない。ただ、賈政は俗事にこだわらず、公務に力を注ぎ、あとは本を読むか、碁を打つかのどちらかである。栄国府のことには無頓着に見えてしまう。
今回のことだって明らかな危険分子である薛蟠を遠ざけることもせず、処罰することもせず、少し釘をさすだけにとどめている。実直、真面目といえば聞こえがいいが、実は賈政は家宰の能力が不足しているのではないか、自分と父のことを棚に上げながらそう思う。
ただ、そう思いながら、結局何もしないところに賈璉の限界があるのかもしれない。考えるのを放棄した彼は、酒を一杯あおって二度寝してしまった。
あずかり知らぬところで賈璉からこっぴどく非難されていた賈政だったが、彼とて何の手も打たなかったわけではない。王夫人に以下のような手紙を送っていたのである。
「妹さんはお年を召しておられ、甥御さんはまだ幼く家事のおさめかたもご存じでない。遠くで離れて暮らしていると、また問題を起こすかもしれない。うちの東南の端にある梨香院には部屋が十部屋以上あり、使わずに空けてあるので、妹さんとお子さん方に住んでもらえばいい」
もともと王夫人も引き留めようと思っていた。だが、王夫人が伝える前に賈母が薛のおばさまへ人を遣わし、「私たちがもっと親しくなるためにここにいてほしいの」と伝えた。
そのことを後から聞いた賈政は、「祖宗にまたやられた」と苦笑し、碁盤に棋譜を並べ始めた。




